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「フランスを回った後、オーストリアやイタリアなんかにも行って来たんだ。このお菓子、美味しかったからユキくんにお土産」
「…ありがとうございます」
包みを開けながら各地での思い出話をしてくれる椎葉さん。でも、そのどれも頭には入ってこない。耳から入った言葉が頭を通らずにするすると抜け出て行くようだった。
椎葉さん、その指輪はなんですか。
椎葉さんは、結婚してたんですか。
どんな話をされても俺の頭の中はそればかりがぐるぐると駆け巡る。無意識のうちに椎葉さんの薬指を目で追ってしまい、部屋の照明に反射して指輪がきらりと光るたびに胸が締め付けられてどうすることも出来ない。
「久しぶりのヨーロッパはやっぱり楽しかったよ」
「……お仕事、ですか?」
やっとの思いで口にした言葉には、ほとんど音が乗っていなかった。音よりも息が多く漏れてしまって、情けないくらい頼りない声。動揺を必死に隠しながらもなんとかそう尋ねると、椎葉さんはいつもの笑顔のまま俺の心を抉る言葉を吐いた。
俺は、椎葉さんを信じていたかったのに。
「いや、新婚旅行。年甲斐もなくあちこち満喫してきてしまったよ」
ふわふわしていた心に、ぴしゃりと冷水を浴びせかけられたような気分だった。
どくんっと心臓が一度大きく脈を打ち、そのままどくどくと不快な鼓動を刻み始める。椎葉さんを待ってる間や対面した時に感じた胸の高鳴りとは違う。何かに当たり散らしてしまいたくなるような、確かな不快さと嫌悪感を含んだ鼓動だ。
「…新婚旅行」
「そう。ずっと交際していた人と先日ようやく結婚したからね」
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