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ただ、普通の幸せがあればそれで良かった。
綺麗で広い家や豪華な食事、贅沢な生活なんていらない。ただ、あの頃のように平凡ながらも幸せで、毎日自然と笑顔になれるような生活に戻ることが願いだった。夢だった。
そこに心の底から一緒にいたいと思える人がいれば、もう、何もいらない。
それだけで充分だったのに………
「海翔?」
次に目が覚めるとすでに海翔の姿は無く、リビングテーブルの上に一枚のメモが置かれていた。メモには買い物に行ってから仕事に行くので早く出るとのことが書いてある。
海翔の字は思ったよりも丁寧で、止めはねはらいをしっかり守っているが少し癖のある字だった。
「買い物かあ…」
たくさん寝たおかげで体はだいぶ楽になった。ソファに身を沈めながら部屋の中を見渡すと、海翔の寝室の扉の前でヨルが寝ているのを見つけた。
気持ち良さそうに眠るヨルをしばらく眺めたあと、ふと外の空気に当たりたくなりベランダの窓を開けた。
「……!」
なんだろう、今の。
窓を開けて顔を出した瞬間に聞こえた機械音。カメラのシャッター音のような、そんな感じの音だった。
たまたま近くを歩いていた人たちがいて、その人たちがカメラを使ったのかもしれない。でも、あまりにもタイミングが良すぎる。気のせいかもしれないし、気にしすぎかもしれない。でも、確かに嫌な感じがした。
よくわからないけど、早く閉めよう。
「…っ」
怖くなり窓を閉めようと動いた瞬間、またもや音が聞こえた。風にかき消されそうなくらい小さな音だけど間違いない。カメラのシャッター音だ。
誰かが俺を撮っている?どうして?いったい誰が?
急いで窓を閉め、勢いよくカーテンも閉める。不安になった俺は点けていた明かりも全部消して自分の部屋に駆け込んだ。
なんで…どうして写真なんて…!
真っ暗な部屋のベッドに潜り込んだ後も、しばらく心臓はばくばくと嫌な鼓動を刻み続ける。
(そろそろ終わりが近づいてきているのかもしれない)
もやもやと苦しい心の中に、そんな考えがくっきりと浮かび上がった。
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