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これからどこに行こう。
お金は持っていないし、ここから椎葉さんの屋敷までの道もわからない。おぼろげな記憶だけを頼りに歩いて帰るのは可能なのだろうか。そもそも、ここはどこなんだろう。
……寒い。
両手を口の前で擦り合わせながら、はあっと気休めの息を吐きかける。暗くなるにつれて冷えていく街の空気。あてもなく歩き続けるには寒過ぎる気温だった。
…タイミングよく椎葉さんの使いの人が現れて、俺の事を連れ去ってくれないかな。そうすれば海翔との別れを悲しむ暇も無くて済む。あそこに戻ればきっと、余計な事は何も考えられなくなるだろうから。
椎葉さんの元へ帰らなきゃいけないというのに、俺の足は未練がましくも海翔と回った数少ない思い出の場所を巡っていた。
お店までの道のりや近くのスーパーまでの道。それと、お店にお邪魔した帰りに立ち寄った小さな公園。ほろ酔いの二人でふざけ合いながらブランコに乗ったり滑り台を滑ったりしたことを思い出して、自然と口元がほころんだ。
もう戻れない、手に入らないあの日々。
不意に、海翔が俺を救い出して匿ってくれた日々がもう思い出になっていることに気付いて凄く悲しくなった。
ついさっきまでのことなのに、こんなに寂しいなんて。
我慢出来なくなった俺は公園に入り、ベンチに腰を下ろして少しだけ泣いた。冬の夜はとても寒く、頬を伝った涙が次々に冷え切っていく。誰にも見つからないように嗚咽を噛み殺しながら、俺はしばらくの間泣き続けた。
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