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ラムネ雪2
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「っあ…は、はい…えっと…」
「河童橋 雪(かわはし きよし)…でしょ?」
その問いにコクリと頷いた。
すらりと背も伸びて、解けるように笑みを浮かべ「久しぶり」と続ける彼に言葉を失ったままじっと彼を見上げた。
「ねぇねぇ!ゆきちゃんは今何やってるの?」
中性的ではあるが、目の前にいるのはどこにでもいる、いわゆる『若者』と呼ばれる同性だ。
服のセンスも、髪型も、靴も…
全てにおいて相手の身に付けているものが、現実離れして見える。
もはや、生き物として勝負にすらならないと思うため、恥ずかしくは思わない。
剃毛した髪に、着やすさだけで選んだTシャツやジーンズを履いている自分なんて月と鼈のようだと思う。
だが、こんな知り合いが自分にもいるんだという自覚をすると、まるで知り合いに芸能人でもいるかのような、こそばゆいような変な気持ちになる。
「別の寺社で奉公してる…今は帰省中」
「へー!やっぱり、家業をつぐの!?」
矢継ぎ早に質問をされる。
「そのつもり…」
雪の家は、寺社の家系で父親も祖父も代々住職を務めていた。
雪も将来は家を継ぐものだと思い、それを疑うことはなかった。
宗門の修行ができる寺へ奉公しながら、仏教の大学へも通っていた。
現在は、大学を卒業しているが、実家には戻っていない。
別の寺で日々の務めをして、別の住職に師事を仰いでいる。
偶々、1週間の暇をもらったため、実家に帰ってきたところだった。
実家に帰ってくると母親は『ちょっとは男として遊んできなさいよ!』と言って豪快に1万円を握らされ、家を追い出された。
特別遊びに興味もないので、書店やコンビニなどをふらふら うろついた。
雪の知っている近所の風景とはすっかり変わってしまったところや、逆に何も変わっていないところなどを散歩しながら、記憶の答え合わせをしていた。
一通り近所の散歩が終わって時間も良いところで、家に戻るとナツキに声をかけられた。
寺の門を見上げた青年に最初は気づかなかったが、笑った顔ですぐに思い出した。声をかけられて、近づくと一気に記憶が蘇ってきた。
「そうなんだっ」
キラキラと笑顔が輝いているような気がした。
女児のようだった可愛らしい笑みは名残が微かに滲んでいる。
「えっと…なっちゃんは、まだピアノ続けてる?」
彼を知る1番の古い記憶だと、ピアノを一所懸命に弾いていると言っていた覚えがあった。
尋ねると、彼は驚いた表情を一瞬した後、取り繕うように微笑みを浮かべる。
「うん…音大でピアノを弾いてるんだ」
「へぇ…そうなんだ。すごいね」
音楽大学というのは、あまり馴染みがないが、幼い頃から続けているピアノを今現在も続けていることに雪は感心した。
その道を極めることは容易なことではない。
だから、幼い頃から続けていたことを今も継続していることがすごいと雪は思った。
「…ねぇ、ゆきちゃん」
「?」
あだ名を呼ばれて、顔を上げる。
その名前で呼ばれるのは、酷く久しぶりだった。
漢字を習いたてだったナツキが表札の漢字を『きよし』ではなく『ゆき』と誤認してから、ずっとそうして呼ばれている。だから、今は彼しかそう呼ばない。
「ん?」
強張った表情をしたナツキを見上げる。
「…なんでもない」
「?」
ナツキは視線を背けた。
その表情は、大人の男としての色気を含んでいた。
こういう表情に異性は弱いのだろうと雪は妙に納得してしまう。
「連絡先教えてよ」
再び視線をあげたナツキは、取り繕うように笑みを浮かべていた。
ズボンのポケットからスマートフォンを取り出して近づいてきた。
「持ってない」
「えっ?」
ナツキの表情は固まって、息を飲み込んだ。
かなり強張った表情をしていて、こみ上げる感情を必死に堪えているかのようだった。
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