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ラムネ雪5
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「ゆきちゃん座布団は?」
「いらないよ」
この部屋に座布団は1つしかない。
誰かが来るようなことは想定していないからだ。
偶に部屋で座禅を組みたくなったときにだけ使うためにしまってあるものだ。
偶にしか使わないから多少湿気っぽいが、まあ大丈夫だろう。
「お茶熱いから気をつけて」
「…」
雪がそう言ってナツキに微笑むと、ナツキは視線を逸らして口をつぐんでしまう。
ナツキの隣に腰を下ろした雪が、自分の湯飲みからズズッとお茶を啜る音だけが聞こえる。
雪は、着物じゃないのに膝を舐める様に手を動す仕草も、腰を下ろす様も、滑らかで綺麗だった。なんの躊躇いもなく正座をして、しゃんと背を伸ばす。その姿勢は竹の様にしなやかで美しい。
「はぁ」
ズズッと啜った熱いお茶を飲み込んで、ホッとため息で吐き出す。
雪の仕草はどこを切り取っても品があった。
「やっぱり、熱いから気をつけたほうがいいよ」
再度、雪はナツキに注意するようにと促した。
雪がナツキを見ると、ナツキは俯いていた。
「…なっちゃんなんかあったの?」
急になんだか静かで、無表情になり俯いているナツキの顔を雪が覗き込む。
「ううん」
ナツキは首をふった。
「じゃあ、体調が悪いとか?」
「ううん」
ナツキは力なく再度首をふった。
「?」
雪はナツキの表情をじっと見つめた。
そういえば、こんなことは昔何度かあったような気がする。
そうじゃなくったって、大人になったんだから、言いたくない悩み事や、言えない事情の1つや2つはそりゃあ、あるだろうと思う。
相談したいと思う相手も悩みの種類もあるだろう。無理やり聞き出すような事はしないつもりだが、心配にはなる。
「…ゆきちゃん」
「なに?」
ふっくらした頬や、天然のカールがかかった天使のような彼ではない。
目鼻立ちに面影はあるが、雪の目の前にいるのは、成人した1人の男性だ。
確かに、雪よりも年下ではあるが、それは一生埋められない歳の差であって、彼が拙いことを戒めるための言葉ではない。
年下であっても、大学生の彼には、雪には知らないそれまでの人生がある。
引越ししてしまってから、当然様々なことを経験してきた事は間違いない。
雪よりも身長は高く、筋肉がつき、幼児のような丸さは全く感じない。
天使のようにうねっていた髪は、直毛になっていて、色素を人工的に抜いた金髪をしている。耳にはピアスが2つ。
身体的な特徴で変わっていないのは、やや色素の薄い瞳くらいだろうか。
雪は、成人したナツキの端正な横顔を見つめた。
儚い色気を感じて、異性ならきっと母性を擽られるのだろうと観察してしまう。
これも、彼が身につけた魅力の一つなのだろうと思う。雪にはない部分なので、素直に感心してしまう。
「ゆきちゃんって、恋人いないでしょ?」
「え?」
予想外すぎる言葉に、雪は戸惑う。
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