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「甲斐くん。」
青山には緑豊かな公園がある。
そこにはお洒落なカフェやショップ、オフィスなんかが入ってて、たくさんの人で賑わっていた。
そんな中を突っ切って、山野さんが足を止めたのは、人気(ひとけ)のないベンチの前だった。
「甲斐くん、俺何か気に触ることをした?」
首を振った。
全然、山野さんは悪くないのだ。
おれ、勝手に拗ねてしょげてただけなんだから。
「じゃ、何があった?」
ひかれたままの手をそのままに、引き寄せられた。
「あ、人が。」
「俺は別に気にしない。」
抱きしめられて、胸が疼いた。
肩に額を擦り付けて、おれは鼻を啜った。
------------※ ※ ※------------
「・・・なるほど。」
落ち着いたおれをベンチに座らせて、山野さんは目の前にしゃがみ込んだ。
「だから、山野さんは悪くないんです。」
山野さんが買ってきてくれた、冷たいコーヒーのカップを揺らした。
「うーん、ごめんな。」
首を振ると、涙が溢れそうになった。
だって、だって。
自分の醜さがよく分かったから。
だって、だって。
器の小ささが、良く分かってしまったから。
「・・・たぶんな、俺は見栄っ張りなんだと思うよ。」
「え・・・?」
急に見栄っ張りって言われてビックリした。
いつもラフな感じで、偉ぶってもないし、そんな山野さんが眩しくてならないっていうのに、見栄っ張りって何だろう。
ポカンとしたのが、山野さんにも分かったみたいで、くしゃっとおれの髪を混ぜられた。
「ちょっとイイところ見せたくて、連れて行っただけだったんだ。」
「・・・え。」
頬を撫でられて、思わず目を細めた。
「俺もまだまだって事だな。」
「?」
もともと小物に興味がないから、最低限必要なものは、今まで100均で買い揃えていたこと。
あの店は、人にプレゼントしないといけない時に、行ったら奥さんが見繕ってくれる便利な店として使っていた事を教えてくれた。
「・・・便利、ですか。」
「そ。だって、教授の還暦祝いとか何渡したら分かんなくない?」
ふふ。
確かに。
「だいたい使えれば何でも良い俺が、唯一知ってる雑貨屋って、あそこくらいなんだ。ちょっとだけ格好付けたくて連れて行ったんだけど、失敗しちまったっつー話だな。」
「・・・勝手に拗ねて、ごめんなさい。」
山野さん、笑ってくれた。
「いや、俺もごめんな?」
山野さんに買ってもらったコーヒーのカップは、びっしりと汗をかいている。
それを取り上げられて、山野さんが一口飲んだ。
ひとつのコーヒーをふたりで飲むって、何だかキュンときて、顔が熱くなった。
山野さんの喉仏・・・。
こくりと上下した喉仏が、なんだかセクシーで。
こんなところなのに、発情した自分が恥ずかしかった。
「・・・て、わけでさ。雑貨屋、連れてって。」
「おもちゃみたいな雑貨屋ですけど、良いですか?」
「甲斐くんが好きな店だろ?むしろ行きたいさ。」
ああ、キュンキュンする。
「見栄張ってごめんな?」
「いいえ、拗ねてごめんなさい。」
ふたりでコーヒーを飲み干して笑った。
「行くか。」
「はい!」
そんな手を繋いで歩きだしたおれたちを、木の影から見つめる人物がいた。
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