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意識してみると、確かに課長から見られている感じがして、お尻がモゾモゾした。
えー・・・どうしよう、顔を上げれないや。
課長の決裁を貰わないといけない書類があるけど、どうしても声を掛ける勇気が出なくて俯いた。
こ、コーヒー飲もうかな。
後ろポケットに入れた財布を確かめながら立ち上がった。
自動販売機は一階のエントランスにある。
小さなベンチが置いてあるから、そこで休憩してから、課長に話をしよう。
そう思って、椅子を引いた。
------------※ ※ ※------------
うちの会社の入るこのビルは、たくさんの会社が入っている。
上の階はIT企業さんだし、一階は不動産屋さんと旅行会社さんで、出張なんてときは、電話ひとつでチケットを持ってきてくれる旅行会社さんには感謝している。
会社は違っても、顔見知りの人が多い。
軽く会釈して、同じく休憩しに来た人と少し離れて座った。
「今日はお天気良いですねぇ。」
「そうですね、でも午後からは雨だそうですよ。」
課長に書類を出したら、また外回りしないといけない。
天井を見ると、小さな蜘蛛がゆっくりと動いていた。
そういえば、蜘蛛の糸って話があったなぁ。
学生の頃に読んだ時は、押し合いへし合いが醜いなぁって単純に感じたけど、今思えば、絶対的権力者の気まぐれが引き起こした話で、ああ、地獄にいた彼らは振り回されたんだなって感じる。
一度、希望を持って蜘蛛の糸を登っていた彼らは、糸を切られて、更に強い絶望に苦しめられたんだと思う。
子どもの頃には分からなかったもう一つの側面に、何だかやるせない気持ちになった。
権力、か。
自分には、なんにも権力なんて無い。
毎日必死に働いているだけだけど、ようやく幸せを手にする事が出来た。
でも。
山野さんを取り上げられたら、もう、立ち直れないかもしれない。
おれにとって山野さんは、天国と同じで、山野さんのいない毎日は、たぶん地獄になる。
ゾッとして、腕を摩った。
「あぁ、蜘蛛ですね。殺虫剤、あったかな。」
休憩していた人が呟いた瞬間、胸が苦しくなった。
「や、そのままにしておきましょう。蜘蛛は、害虫を食べてくれますから。」
「・・・それもそうですね。」
ちょっと必死だったかもしれない。
笑顔で、でもほんの少し困った顔をして、その人は自分の仕事に戻って行った。
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