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「甲斐さん、顔色が悪いですよ。」
「え?」
再試験が終わり、解答用紙を課長に手渡した瞬間、そう課長に言われた。
「今日はこのまま帰りなさい。」
「あ、いえ・・・。」
課長が立ち上がって、おれの肩に触れた。
「体調が悪い時に、結果は出ません。ゆっくり休んで下さい。」
覗き込まれるように見つめられて、びっくりした。
慌てて距離を置くと、課長は少し傷ついた顔をした。
えっと、どうしよう・・・。
女性の声がした。
「甲斐さん、どうされたんですか?」
「寺田さん・・・。」
振り向くと寺田さんが来てくれていた。
ドギマギする胸を押さえて、寺田さんの方に一歩近寄った。
「甲斐さんが体調悪そうなので、帰るように言いました。寺田さん、良かったら帰る準備を手伝って差し上げて下さい。」
お、女の子じゃないから、帰る準備なんてそんなないし、そもそもそんなに体調が悪いとは感じていない。
それでも社内のみんなから見られて、「帰らない」なんて言えそうも無かった。
「えっと、自分で出来ます。すみません、失礼します。」
ぺこりと頭を下げると、ふたりの手を振り切って自席に戻った。
恥ずかしいやら情けないやらで、泣きそう。
大人なのに、人に言われて帰るなんて初めてだ。
山野さんからも連絡ないし、気持ちがぐちゃぐちゃだ。
引き出しに文房具を突っ込んで、ノートパソコンの電源を切った。
ロッカーにしまいにパソコンを持ち上げながら、こっそり鼻を啜った。
もう、やだ。
なんで今日はうまくいかないんだろう。
テストも今まで初めて、再試験を受けた。
それだけでも情けないのに、こんな変な感じで帰らせられるなんて・・・っ。
「甲斐さん大丈夫?タクシー呼ぼうか?」
「寺田さん、おれ大丈夫だから。お仕事して。」
ロッカーから鞄を出してパソコンを置いた。
鍵をかければ、帰り支度は終わる。
「すみません、お先に失礼します。」
「お大事に。」
みんなの声を聞きながら、逃げるように会社を出た。
山野さん、山野さんっ!
逢いたい、逢いたいよ・・・っ。
恥ずかしい。
恥ずかしい。
こんな自分が情けない男だったなんて知らなかった。
山野さんから冷たくされただけで、足元がゆらゆら揺れる。
揺れて、ひとりでは立ってらんないくらいに、動揺した。
こんなに弱かったっけ。
こんなにダメな大人だったっけ。
おれは、俯きながら駅に向かって駆け出した。
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