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「・・・。」
答えを出せなくて困っていると、松島さんがおれの頭を撫でた。
「ごめん、嘘。病院が無理なら、甲斐くんの家に送る。」
「あ・・・でも。」
送ってもらうなんて出来ない。
ちゃんと帰れるはずだから。
「でもじゃない。これが最大の譲歩だから。」
怖い顔で言った後に優しく笑ってくれた。
「ちょっと職場に連絡とるから、ここにいて。」
「はい、すみません。」
結局、松島さんに迷惑かけちゃった。
少し離れたところで携帯で話をしている松島さんを見ながら、胸ポケットを触った。
山野さんに、逢いたい。
一回寝て、落ち着いたら行こう。
なんだか悲しいし、不甲斐ないし、苦しい。
おれって、本当に情けない。
そういえば、どうして松島さん電車に乗ってたのかな。
いつもなら、病院にいる時間なのに。
そう思いながら、おれはギュッと目を閉じた。
------------※ ※ ※------------
「大丈夫?」
「はい、大丈夫です。」
玄関先で別れるつもりだったのに、松島さんは家の中まで付き添ってくれた。
朝起きっぱなしのぐちゃぐちゃのベッドを整えてくれて、途中、コンビニで買ったゼリー、スポーツ飲料を食べやすいように並べて準備してくれた。
お粥のレトルトパックは、すぐに食べれるよう水を入れたお鍋に沈めて、ガスコンロの上に置いてくれたし、感謝しかなかった。
「・・・アメコミ、好きなんだ?」
「はい、映画とか観に行きました。」
本棚に飾ってあるフィギュアを見て、俺も好きと話してくれた。
「絶対的強さがあるのに、必ず敵の罠に嵌るのは何でだろうな。」
「ああ、分かります。でも、必ず最後は勝つんですよね。」
水戸黄門じゃないけど、バッドエンドは無い。
常にヒーローはカッコよくて、素敵な恋人がいるのだ。
「ヒロイン役って変わる事が多いよね。」
「あー・・・そうですね。」
ヒーローは変わらない。
でも、次の作品ではヒロインが変わったりする事が多い。
「大人の事情なんだろうけど、あれは残念だよね。」
「分かります。最初のヒロインのイメージで観てるから、違和感があったりするんですよね。」
胃の痛み、胸の苦しさは少し薄れてきている。
雑談は、不甲斐ない自分へのストレスを軽減させてくれた。
「まあ、映画も最後の方だと違和感も無くなるんだけどね。」
「そ、ですね。」
寝るように促されたけど、着替えてないから寝れない。
パジャマ代わりのTシャツを手にもったまま、ベッドに座った。
「甲斐くんにとってヒーローっている?」
「おれにとって、ですか。」
間違いなく、山野さん。
格好良くて、優しくて、大好きな人。
そこまで考えてドキリとした。
『ヒロイン役って変わる事が多いよね。』
・・・あ、どうしよう。
山野さん、ほかに好きな人が出来たとか・・・。
「じゃ、帰るけど、また具合が悪くなったら連絡して。すぐに駆けつけるから。」
「色々とありがとうございました。」
手が震えそうだった。
なんとか笑顔を作って見送ると、スーツのままベッドに突っ伏した。
一度浮かんだ考えは、なかなか消えてくれなかった。
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