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「もしもし。」
『お疲れ。』
コール音はすぐに消えて、大好きな人の声が流れてきた。
もう、それだけで嬉しくて泣きそうで。
「や、まのさんっ・・・!」
みっともなく涙が浮かんだ。
『え、どうした?』
まるで、子どもみたい。
迷子になって、お母さんに見つけてもらったみたいな、そんな感じで。
嬉しいのと、怒ってない事にホッとしたのと、嫌われたわけじゃないっていう気持ちがぐちゃぐちゃに混ざって、涙腺が緩んだんだ。
「ううん、なんでもない。」
『・・・朝はゴメンな。』
「ううん、なんか変なメッセージ送ってゴメンなさい。」
電話口からゴソゴソって音がした。
『別に変じゃないよ。ちょっと色々あって、ちゃんと返事出来なくてゴメン。』
「ううん、忙しいのに返事してくれてありがとう。」
本当、山野さんて忙しいんだ。
中間管理職みたいな感じで、先輩先生と新人先生との間に立ってて、仕事量も多い。
『気分、悪くしなかった?』
首を振った。
不安になった自分が恥ずかしかった。
「大丈夫。」
『甲斐くん、今、どこ?』
あ、ご飯の話だ。
「家に戻ってきてて。でも、風邪ひいてるから、ご飯無理かも。」
『ええ?!』
山野さんの声が裏返った。
『ちょ、甲斐くん、病院は?』
「行ってないけど、大丈夫です。」
山野さんが息をのんだ。
『発熱は?』
「たぶん、微熱だと思います。」
『のどは?』
「ちょっとだけ、痛いかも。」
『じゃあ、鼻漏(びろう)は?』
鼻漏(びろう)とは、医療用語で鼻水のことだ。
「詰まった感じがします。」
『甲斐くん、今からそっちに行くから。』
ええ?!
「ダメです!うつしちゃう!」
『うつんないよ。誰だと思ってんの。』
思わず、しわくちゃのスーツを伸ばした。
「だって・・・!」
『甲斐くん専用の訪問診療だと思って。ね、アイスパックある?』
えっと、
「氷枕はありません。」
『オッケー。アレルギーは?』
えっとえっと、
「特には・・・。」
『運転とかする?』
基本は、しない。
でも、物品を運ぶ時には運転するけど・・・。
「明日明後日は予定はないですけど、もしかすると運転することもあるかもです。」
『分かった。じゃあ、寝てて。』
「あ、でも・・・っ!」
止めようとしたけど、すでに電話は切られてしまった。
呆然と黒くなった画面を見たけど、同時に腕時計が目に入って慌てた。
き、着替えておかないと!
だらしのないヤツって思われちゃう!
松島さんが部屋に入った時には気にならなかった床の雑誌も、机の上の飲みかけのペットボトルも急に気になった。
ヤバイヤバイヤバイ!!
・・・あ、なんか熱あがったかも。
よろよろと立ち上がって、スーツを脱いだ。
とりあえず、服くらいは着替えなきゃ。
そう思いながら、くらくらする頭を振った。
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