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久しぶりの胃カメラは、疲れた。
鼻から入れる方法もあるけど、うどんより太いそれを鼻に入れるのも抵抗があるから、おれはいつも口から派だ。
これ、何回やっても慣れない。
でも、たかお先生は上手な先生だった。
酷い人だと、カメラが入っている間、永遠苦しむ。
サッと入れて、サッと終わってくれたのは嬉しかった。
あと、助かったのは胃カメラを入れている間に説明が無かったこと。
たまに、
「ほら、ここが赤くなっていますよね。底の方が全部赤いポツポツがあるから・・・」
とか、
「じゃ、十二指腸入りまーす。お、こっちは、ほら見て。」
とか、
お願い!今説明しなくていいから、早く終わらせて!!っていう先生がいるから、胃カメラって気を抜けない。
それが、たかお先生は無かった。
検査が終わって涙を拭いているうちに、説明の準備が出来たのか、診察室に呼ばれた。
「お疲れ様でした。炎症はありましたが、まだ酷くは無いので胃酸を抑える薬を出しますね。」
「はい。」
見せてもらった写真では、胃の内部が赤くなっていた。
とはいえ、資料写真で見るほど酷くはなく、非びらん性胃炎というところみたいだった。
「念のために血液検査もしましたから、検査結果は2日後聞きにいらしてください。」
「あの・・・お電話でもよろしいですか?」
そうそう仕事は休めない。
「構いませんよ。ただ、診察を優先していますのでお待たせする可能性もありますが、良いですか?」
「もちろんです。」
待つくらい、なんでもない。
「・・・ところで。」
「はい。」
パソコンを向いていた たかお先生がこちらを向いた。
「山野先生に、ご馳走様って伝えていただけますか。」
「え、ごちそうさま?」
「そう言っていただけば、分かると思いますよ。」
ごちそうさまって何だろう?
でも、とりあえず伝えなきゃ。
「分かりました。」
------------※ ※ ※------------
『どうだった?』
「胃炎だってことで、胃酸を抑える薬をいただきました。」
病院を出た瞬間、珍しく、山野さんから電話がかかってきた。
ビルを出ると、お出汁の匂いが襲ってきた。
胃カメラを飲んだら、一時間程度は何も口に出来ない。
検査で食欲も失われたせいで、朝よりはお蕎麦を食べたい気分にはならないし、早く家に帰って横になりたかった。
「たかお先生から、伝言があって。」
『伝言?』
道を渡るために、左右を確認した。
・・・車は来てない。
「えっと、ごちそうさま、だそうです。」
『ご馳走様?』
よし、渡れた。
「はい、言えば分かるって。」
あー・・・牛丼。
家で食べたいけど、電車に乗るのに匂いがするか。
牛丼屋さんを横目に通り過ぎた。
『あー・・・、それ、アレだわ。』
「あれ?」
やっぱりコンビニで弁当かな。
ポケットからパスケースを取り出した。
『それ、彼氏を診てくれって言ったからだ。』
「ええ?!」
思わずパスケースを落とした。
『高尾は、俺がアレだって知ってるんだ。』
アレとは、ゲイってこと。
『言っておかないと、甲斐くんを狙われたら困るからね。』
「なっ?!」
どうしよう、恥ずかしいけど嬉しい。
嬉しいけど、めちゃくちゃ恥ずかしい。
「ね、狙われないですよ。」
『いんや、危ないね。』
落としたパスケースを拾おうとしたところに、横から手が出てきた。
え。
「・・・課長?」
おれのパスケースを手に笑う課長の姿に、得体の知れない恐怖を感じて、血の気が引くのがわかった。
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