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「あらかた片付いたな。」
「はい。ありがとうございました。」
山野さんのスカスカのクローゼットに、おれの服は全ておさまった。
「山野さんて、あんまり服、持ってらっしゃらないんですね。」
「だって、白衣か手術着ばっかりだから、中に着るやつだけで充分だろ?」
ふふ、無頓着な人。
おれの荷物が増えたせいで、山野さんの部屋は一気に生活感が溢れた。
「体調はどうだ?」
「はい、大丈夫です。」
胃の痛みは、今はない。
吐き気も熱っぽさも治まっている。
同棲生活が急に始まることになって、本来なら浮かれても良い状況だけれど、気持ちを塞ぐのは、中山課長の件だ。
「コーヒーでも飲んで、ゆっくりしよう。」
「はい。」
山野さんはコーヒーが好きなおれのために、カフェインレスのコーヒーを買ってきた。
妊婦さんじゃないのに、なんだか申し訳ない気がしたが、カフェインはやめておいた方がいいとシタリ顔で言われてしまった。
「まず、どうしたい?」
「・・・どうって?」
コーヒーの良い香りが部屋中に漂った。
「甲斐くんが会社を辞める?それとも山中を追い出したい?」
「中山です。・・・そうですね。」
会社は辞めたくない。
でも、追い出すっていう物騒な響きは、少し怖かった。
「辞めるのも抵抗はあります。でも、追い出すっていうのも、ちょっと怖いです。」
「逆恨みってこと?」
それもあるけど・・・。
「会社を辞めるって、人生が変わると思うんです。おれ、変かもしれないけど、それを他人に強要するの、怖い気がします。」
山野さんが微笑んだ。
「甲斐くんは優しいね。」
おれは首を振った。
優しいわけじゃないと思う。
臆病なだけだ。
「じゃあ、こうしようか。」
カップを握ったおれの手を、山野さんが掴んだ。
「アイツに退職の相談をしよう。もちろん、外でだ。」
「外?」
「そ、俺の目の届くところで。」
それって、ファミレスとか?
居酒屋とか?
「それも酒が入っていた方が良い。本音が出やすいからね。」
「・・・本音。」
山野さんの綺麗な指が、優しくおれの手の甲を撫でた。
「場所はね。」
居酒屋弥平太。
山野さんの高校時代の同級生のお店に決まった。
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