アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
51
-
「せ、先日はありがとうございました。」
受話器を握りしめたまま、深々と頭を下げた。
『その後、体調はどう?』
「お、おかげ様でっ!」
震えが止まらない。
拳を膝で擦った。
「快復しました。」
『良かった。・・・滋養のある食材を使った料理店があるんだ。季節の変わり目は体調を崩しやすいから、良かったら行かないか?』
松島さん、怒ってなかった。
すっかり忘れてた・・・、ダメだな、おれ。
「良いですね。松島さんて、お詳しいんですね。」
『偶然知ったんだよ。・・・どう?今夜にでも。』
こ、んやは、ダメだ。
課長を連れて、山野さんと弥平太に行くつもりなのだ。
「ごめんなさい、先約があって。」
『なら、明後日は?』
明後日は金曜日だ。
出来るなら、先に帰って山野さんの帰りを待っていたい。
先週みたいにお惣菜を並べて待っているだけで、山野さんは凄く喜んでくれるんだ。
「・・・ごめんなさい。」
『そっか、残念。』
回覧が回ってきて、それを受け取ろうと片手を上げて気が付いた。
「か、課長!」
『え。』
課長が直接、手渡ししに来たのだ。
慌てて電話を肩で挟んで、両手で受け取った。
すぐに背中を向けた課長は、隣の寺田さんと話をしている。
「すみません、何でもないんです。」
『・・・体調不良の原因って、その課長なんじゃない?』
力無く首を横に振った。
「違います、ご心配をおかけしてすみません。」
『相談に乗るから。大丈夫、誰にも言わないよ。』
松島さんの言葉に涙が出そうになった。
でも、松島さんは同郷の先輩ってこと以上に、お客様だ。
「ありがとう、ございます。その時はよろしくお願いします。」
『ん。で、話は変わるんだけど。』
納品日の確認だった。
「いま確定を急いでいます。ご都合の悪い日時はございますか?」
課長と話の終わった寺田さんがメモを、おれの机置いた。
遠野内科様、11月1日以降ならいつでも調整可能、か。
電話で話しながら手帳を出した。
おれの予定的には・・・。
「例えば、9日土曜日の診療後はいかがでしょうか。」
『大丈夫です。』
「では、その日程で納品可能か再確認致します。」
電話を切ってからしばらく、動けなかった。
課長手ずから回してきた回覧に、メモが挟んであったからだ。
“体調が良ければ、今夜軽く食事に行きませんか“
渡りに船の状況なのに、怖くて仕方がなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
51 / 108