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『アハハッ!そりゃおおごとになったな。』
15時。
休憩、と称してまたビルの一階に逃げてきた。
ちょうど山野さんも医局でカルテを確認していたそうで、話ができた。
「笑い事じゃないですよ、本人ノリノリなんですから。」
居酒屋とはいえ、女性ひとり座らせるのは気になる。
変な輩に絡まれたら、可哀想だ。
『その子、俺が引き取るよ。一緒に座った方が、怪しまれない。』
「え、山野さんと?」
山野さんの笑い声が響いた。
『そ。目的は同じだし、その子さえ嫌じゃなければ同席させてもらうよ。』
「・・・話してみます。」
山野さんと寺田さんが一緒に座る。
なんとなく面白くなかった。
でも、ふたりともおれのために動いてくれてるんだから、そんなふうに思っちゃダメ、ダメ!
『見られてる感じ、する?』
「席にいるときは。今は大丈夫です。」
ボイスレコーダーを仕込んで、居酒屋に行かなきゃ。
『予約、俺の時間の都合で8時にしたけど大丈夫かな?』
「もちろんです。課長と寺田さんに伝えます。」
寺田さんに伝えると、一度帰ってから出てくると言われた。
山野さんの名前を伝えて、同席の許可を貰った。
「ふふ、甲斐さんもちゃんと準備してるのね。」
「うん、可能な限りの自衛手段。」
山野さんのことは恋人とは説明していない。
えっと、ボイスレコーダーどこに入れたかな。
自席で鞄をひっくり返した。
ペンぐらいのサイズのレコーダーだから、すぐに鞄の中で迷子になってしまうのだ。
「・・・え。」
鞄の底から、見慣れない黒い機械が出てきた。
手のひらにすっぽり収まるそれは見たこともないし、第一、鞄に入れた記憶が無い。
なに、これ。
黒光りするそれがとても不吉なものに見えて、ゾッとした。
「甲斐さん、どうしたの?」
「ん、ううん。」
・・・これ、GPS発信機だ。
背筋が凍った。
いつ、どうやって?!
会社の中では鞄は、ずっとロッカーに置いている。
課長が入れるにしても、さすがに何をしているのかと怪しまれるだろう。
・・・飲みに行った時?
でも、ふたりっきりで飲んだのは少し前の話だ。
その時から・・・?
震える手で、静かに機械を置いた。
これ、充電ってどうなってるの?
電池はどれくらいで切れるものだろう。
充電式?それともボタン電池とか?
機械の型式をメモして、机の中に入っているコンビニのビニール袋を取り出した。
もしかしたら、指紋とか付いているかもしれない。
そうなれば物的証拠になる。
こっそり課長を伺うと、他の営業と話をしていた。
あまり触らないように気をつけながら、ビニール袋にそれを落とした。
・・・とりあえず、気付かないふりをしないと。
これで分かった。
なぜ、電車で会うのか。
なぜ、病院の帰りに会うのか。
「ね、寺田さん。」
「何?」
相手は本気だ。
寺田さんに危害が及ぶ可能性がある。
「さっきのヤツ、やっぱり中止しよう。」
「なんで?」
“おれの鞄に、GPSが入ってた。かなりヤバイから来てもらうの禁止!“
メモを見せると、寺田さんの目が大きくなった。
「分かった?」
「分かった。」
そうして寺田さんは挑戦的な笑顔を見せた。
「おじさんと同行します。」
「!!!」
こうして奇妙な集団が、居酒屋弥平太へ集結することとなった。
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