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「それって大丈夫なの?」
山野さんが顔を顰めた。
同棲生活をはじめて、最初の金曜は、おれの部屋から持ってきたホットプレートが主役の料理。
つまり焼肉にした。
煙を上げながら焼けるお肉のいい匂いが堪らない。
持ってきたお米を、たっぷり炊いてよそっている。
「大丈夫ですよ、同じ学校の先輩ですし。」
「ふぅん。」
ここに住んでいることは話していない。
「バッティングセンターでバットを振るだけだし、遊んだら帰ってきます。」
その後に、山野さんに送るプレゼントを見に行くのは内緒だ。
「ソイツが犯人って訳じゃないって確信持てる?」
「うん。飲みに行ったときも、鞄を置いてトイレとか行ってませんもん。」
山野さんが悩むような仕草をした。
「・・・やっぱり出ないほうが、良さそうですか?」
「うーん。俺の心境的には、ずっとここに閉じ籠っていて欲しいけど、可哀想な気もするんだよな。」
山野さんは、自分が側にいない時に襲われることを心配していた。
「大丈夫です。これでも力はあります!」
「本当にぃ?」
だって、機械を運んだりもするし、外回りするときは、かなり歩く。
医局の前に、立ちっぱなしもよくある事だ。
「足腰強い方だと思いますし、腕力もあります。」
「まあ、確かに腕や背中の筋肉は綺麗についているよ。」
焼けたお肉を摘んで、山野さんのお皿に置いた。
「それ、高校の時に弓道してたからだと思います。」
「へぇ・・・。」
山野さんも思うところがあったようだ。
山野さんは置かれたお肉で米を巻いて、口に運んでから言った。
「道着って残してる?」
「弓道着ですか?たぶん実家にありますよ。」
山野さんが嬉しそうに笑った。
「それ、今度着てエッチしよう。」
「なっ?!」
米粒が変なところに入った。
ゲホゲホしながら、涙目で山野さんを睨んだ。
「見たいなぁ、甲斐くんの凛々しい姿。」
「ゲホッ!!・・・き、るのはいいですけど、その、しちゃったらコスプレになっちゃうから嫌です。」
「えー、けちー。」
ダメなものは、ダメ!
神聖なものなんだから。
「ケチじゃないですって。」
弓は学校の備品だったけど、矢は購入していた。
道着も矢も、今思えば、家計の負担だったろうと思う。
「大人になって、お金の価値が分かるようになったから分かったんですけど、弓道ってお金が掛かるんです。」
ピーマンとヤングコーンを自分のお皿に置いた。
「矢筒や弓は学校の備品でしたけど、その他は全部自腹。矢も5、6本は必要だから、そこでも一万円が飛んでいくんです。」
しかも、一年生の時に買った矢は、二年になる頃には限界を迎える。
簡単に「必要だから買って。」って言ってた自分が恐ろしい。
本当、育ててくれた親には感謝しかない。
「へぇ。矢も備品だと思ってたよ。」
「そういう学校もあるみたいですね。道着も備品のところがあります。」
学校によりけり。
でも、部活で全然お金の掛からないものって、無いんじゃないかな?
「山野さんは部活してました?」
「・・・してないなあ。」
答えるまでに間が空いた。
山野さんは苦笑いをしながら、焦げた玉ねぎを摘んだ。
「ま、勉強ばっかりだったよ。」
「そうですよね、医大に合格しないといけないですし。」
お医者さまになるまでに、相当な努力と資金が必要だ。
「ま、おかげで甲斐くんと出逢えたから、俺の青春は報われたってことだな。」
ふふ。
「良く頑張りました。」
ほんの悪戯心で、向かい合わせに座る山野さんの頭を撫でると、嬉しそうに笑ってくれた。
「今夜もご褒美あるかな?」
「お手柔らかにお願いします。」
ひょんな事から始まった同棲生活だけど、すごく幸せで。
おれは、ずっとこんな日が続けば良いなって、そう思った。
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