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チャイムのベルは、作戦開始の合図。
「お疲れ様です、富永さん。」
「急にゴメン。」
会社の先輩である富永さんは、にっこりと笑っておれにコンビニのレジ袋を渡した。
「ビールとつまみ。」
「わぁ、ありがとうございます。」
つめたく冷えたビールと、ナッツやイカなどのつまみが沢山入っていた。
「・・・あれ、引っ越しするの?」
ギクリとした。
まさか空っぽのタンスの中身まで知られているとは、思っていなかったのだ。
そして、もう引っ越したことを知られたら、山野さんまで狙われることになるかもしれないと思った。
「え、しませんよ。」
声が震えたかもしれない。
緊張しながら、返事をした。
「どうぞ、汚くしてますけど入ってください。」
「ありがとう。」
ラフな格好の富永さんは、スニーカーを脱ぎ捨てると、小さなちゃぶ台の前に胡座をかいた。
緊張しながら、その前に座って、顔を見ないように袋からビールを取り出した。
「・・・よく分かりましたね、ここ。」
「あ、うん。・・・一回、飲みの後にこの辺でタクシー降りただろ。」
・・・山野さん、ごめんなさい。
めちゃくちゃ心当たりがあります。
しかも、アパートの前で降りました。
「そ、でしたね。そうでした。」
ビールを渡して、つまみを広げていく。
「残り、冷蔵庫に入れておきますね。」
「ありがと。」
台所に行って、ハッとした。
おれのバカ!
冷蔵庫のコンセント抜いてたし!!
恐る恐る振り返ると、富永さんはおれのベッドをぼんやり見ていた。
ヒッ!!
な、なるべく距離を保つ必要あり!!
富永さんを刺激しないように、そっとプラグを拾ってコンセントに押し込んだ。
お願いします。
お願いします。
急速に冷えてください、お願いします。
僅かな期待を込めて、冷凍庫にビールを置いた。
「お待たせしました。」
「な、テレビ点けても良い?」
「テレビ?!」
思わず声が裏返った。
テレビのプラグも抜いた記憶がある。
テーブルに置きっぱなしのリモコンを握った富永さんが、魔王に見えた。
「だ、ダメです!節約中なんです!!」
「・・・は?」
慌てて取り返した。
「え、甲斐くんてソウイウ人?!」
わかんない分かんない!
ソウイウ人って何の事か分かんないけど、肯定した。
「はい!ソウイウ人です!!」
富永さんがちょっと引いたのを感じた。
何に引かれたのか分からないけど、何となく傷付いた。
「えっと、その、話って。」
そう話を振ると、富永さんが疲れた顔で笑った。
「ま、飲みながら話そう。」
「あ、はい。」
缶だから大丈夫だよね。
いわゆる睡眠薬とか、入ってないはずだよね。
プルタブを開ける前に、傷がないか缶を観察してみた。
「・・・何してんの?」
「え?!あ、いや、ビールって何で出来てるんだろうなって。」
何となく。
何となくだけど、やっぱり引かれた気がする。
地味に傷付くけど、おれへの執着心が無くなれば良いんだから、多分、やっていることは正解だと思う。
ちょっとだけ自分を慰めた。
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