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ここでひとつ、思い出していただきたい。
甲斐邸に置き去りにされた3人の事だ。
「寺田さん、めちゃくちゃ可愛いです。」
「そんな、恥ずかしいです。」
後のない富永が必死になっていた。
「じっ!ジロジロ見てはいけません!」
とは、焦りを感じた中山課長のセリフだ。
「て、寺田さん、これってセクハラになりますか?」
「いえ。」
そもそもセクハラは、本人が嫌がる事を言う場合に適用される。
言っても良い相手と言ってはいけない相手があるのだ。
同じセリフでも、言う人が異なればセクハラにならない。(と思う。)
「素直に嬉しいです。」
寺田は、純粋に嬉しかった。
30を過ぎてここまで褒められた経験はない。
それが力士の格好をしている富永であっても、嬉しかった。
「良かったぁ!!」
ぽにゅぽにゅの腕でガッツポーズをした富永を見て、中山はめちゃくちゃ焦った。
・・・これは、とんびに油揚げ状態になりそうな嫌な予感がする。
「寺田さん!その・・・っ!」
何か話をしようと思うのに、話題が見つからない。
うろうろと視線を彷徨わせて、ハッとした。
「映画とかお好きですか?」
アメコミのフィギュアが目に入ったのだ。
「好きですよ。色々観ます。」
「例えば?」
よっしゃ、話題が繋がった!
「そうですね、SFも恋愛ものもサスペンスも気になったものは観ます。」
「あれ、観ましたか?」
手首から蜘蛛の糸がでるやつだ。
「観ましたよ。あれも良かったですけど、ロボットのヤツが好きですね。」
「ああ、あれですね!」
社長がロボットスーツを着るヤツだ。
「あれ、1が一番好きです。」
話を富永に奪われた。
「ですよね!面白かったですよね。」
うう〜。
気の利いたことが思い浮かばない。
中山は、とにかく不器用なのだ。
「とんびめ・・・っ。」
「え?」
「なんでもないです。」
チンピラの格好の中山は、少ししょげた。
寺田さんは自分と話をするより、富永と話すほうが楽しそうに見えたからだ。
中山は、人見知りだ。
仕事なら割り切って話せる。
でも、プライベートでは何かきっかけが無いと難しかった。
何か話さないとという気持ちだけが空回りする。
寺田さんに話しかけるのは勇気がいるので、とりあえず富永に質問した。
「・・・富永さんは、何故お相撲さんの格好をされているんですか?」
「ええっと。」
富永としては、何故なのかは分からない。
甲斐に用意されていただけなのだ。
「これ、甲斐くんの趣味みたいで。」
「え。」
寺田はびっくりした。
そんなカミングアウト、初めて聞いたからだ。
「いつからのお付き合いなんですか?」
「へ?」
富永は首を捻った。
甲斐くんが入社したのいつだったっけ。
甲斐くんは中途入社だった。
「よく覚えてないですけど、5年は経っていると思います。」
「まあ。全然知りませんでした。」
そりゃ寺田さんはうちの部署に来て1年半くらいだ。
甲斐くんの入社時期なんて知るわけがない。
「言われてみると、そんな気もしてきます。」
「分かられますか。」
寺田さんと甲斐くんとは席が隣だ。
もしかしたら番付表なんて見ていたのかもしれない。
若いのに相撲好きとは、俺は知らなかった。
「はい、片鱗があった気がします。」
寺田は思った。
そういえば、甲斐さんは富永さんのことを意識していたのかもしれない。
富永さんが取った眼科の案件ニュースを食い入るように見ていた。
彼氏の趣味のコスプレをするって、富永さんもよっぽど愛してるんだわ。
「私、応援しますね。」
「?、ありがとうございます。」
富永としては、寺田が何を応援してくれるのか分からない。
分からないが、ここはお礼を言っておいた。
「あ、あの。甲斐さん遅いですね。」
「課長もそう思われます?」
寺田が立ち上がった。
「私、見てきます。」
「いや、わたしが行きますよ。」
富永にとっては、口が裂けても言えないセリフだ。
ここは課長にお任せしたい。
寺田さんとふたりっきりで、もっと親密になりたかった。
「あ、じゃあ一緒に行きますか?」
え!!
「何か甲斐さんが巻き込まれていたらいけませんもの。」
「じゃあ、一緒に行こう。」
・・・このやろ甲斐めぇ・・・ッ!!
相撲のコスプレじゃなければ、俺が寺田さんと一緒に行ったのに!
笑顔で送り出しながら、富永は甲斐へ向かって呪いの呪文を唱えたのだった。
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