アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
45
-
「・・・これ、アイツだよな。」
中山課長・・・。
考えるのも恐ろしいけど、そうなのかもしれなかった。
「いつも写真撮ってんのかよ・・・。」
山野さんの目が鈍く光った。
封筒がギュッと握られて皺になっていく。
「家、近所って言ってたもんな。」
「う、うん。」
山野さんから肩を掴まれた。
「甲斐くん、とにかくうちに住もう。必要なものは全て持っていくぞ!」
「は、はい!!」
掴まれた肩は、強く握られたせいで痛い。
それだけ山野さんが本気で危機感を覚えている事実は、おれの気持ちを揺さぶった。
「行くぞ!」
階段を駆け上って部屋の入り口を見て、更にゾッとした。
薔薇が一輪、立て掛けてあったのだ。
くにゃりと首を垂れたそれの状態を見るに、朝、家を出た後に置かれたに違いない。
もしかすると、扉を開けた瞬間、中山課長と会っていたかもしれない状況を想像して、胃がキリキリと痛んだ。
「そんなの放っておけ!」
花に罪はないけれど、怖くて触ることは出来なかった。
項垂れた花弁は、いまにも散りそうになっている。
震える指で鍵を鍵穴に差し込むと、山野さんが躊躇なく扉を開いた。
飛んで行った薔薇は、ぐにゃりと廊下の端へ転がって、不気味な雰囲気を醸し出した。
もう、やだ!
見ないようにして部屋に入った。
クローゼットを開けて、手当たり次第に取り出した。
「甲斐くん、これに入れよう!」
山野さんが台所から持ってゴミ袋に、どんどん詰めていく。
皺になっても良かった。
すぐにこの部屋から出たかった。
「必要な書類は?!」
「テレビボードの中です。全部、とりあえず持っていきます。」
服、靴下、下着、靴。
通帳と印鑑、賃貸契約書に、マイナンバーカード。
携帯の充電器、ノートパソコン。
あと、あと。
「このへんのフィギュアは?!」
「置いていきます。本当に必要なものだけで、」
山野さんが振り返った。
「いざとなれば、全て業者に廃棄処分してもらうけど、大丈夫?」
・・・。
二度と戻らないかもしれないって、ことだ。
そんな事態、あり得なくは無い。
「大丈夫、です。」
好きだけど、思い入れは無い。
もったいない気もするけれど、山野さんとの生活には不要だ。
「いざとなれば、全部処分します。」
もう戻って来ないかもしれない部屋をぐるりと見渡した。
・・・うん、大丈夫。
生きていけるだけのものがあれば、それだけで良い。
おれには山野さんがいる。
きっと、大丈夫。
そう言うと、妙に気持ちが落ち着いた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
45 / 108