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「へぇ、あの課長が。」
「うん、家に来たんだ。」
「・・・気味が悪い。」
どこまで話したら良いのか迷った。
でも、おれの感情を挟まずに、事実だけを伝えることにした。
おれたちの前には、女性の好みそうな野菜の多い日替わりが置いてある。
雑穀米に、根菜のたくさん入った豚汁、ひじきの煮物に、香草たっぷりのチキンソテー、小松菜の炒め物、大きな梅干しが添えてある。
豚汁の中のレンコンを奥歯で噛み砕いて、飲み込んだ。
「昨日、お休みもらって病院に行ったんだ。」
「うんうん。」
「目黒駅の側の病院なんだけどね。」
添えてあった、温かい焙じ茶を一口飲んだ。
「病院から出てきたら、課長が駅に居たんだ。」
「え・・・っ!」
流石に寺田さんも表情がかたい。
「・・・待って、確かに昨日は課長出掛けたのよ。どこって書いてあったかな。」
一口サイズに切られたチキンソテーを、箸で摘んだ。
「あー・・・、興味無さ過ぎて分かんない!会社戻ったら調べるからね!」
「ごめんね、ありがとうございます。」
香草の香りが鼻に抜ける。
柔らかな弾力は、若鳥特有のものだ。
「でも何かストーカーっぽいよね。気持ち悪っ!」
「おれのせいで、課長への印象悪くしちゃってごめんなさい。」
寺田さんは首を振った。
「大丈夫!もとから興味ないから。」
「ふふ、それも酷いよ。」
多分だけど、寺田さんは課長と同じ歳なんじゃないかな。
多分だけど。
「で、あの手紙は何?」
「・・・今日、飲みに行こうって誘い。」
寺田さんの手から、箸が落ちた。
「び、病気で休んだ翌日に?てか、手紙で誘うって、気味悪ッ!」
思わず笑った。
おれの言いたい事を、全部寺田さんが代弁してくれたからだ。
「高校生の女の子みたいだよね。」
「てか、社内で内緒で付き合ってるみたいになってるじゃない!」
寺田さんの眉が上がった。
「もちろん断るんでしょ?」
「ううん、行ってくる。」
ひじきの器を取った。
甘辛く炊いてあるそれは、お母さんの味に似ていた。
「ダメよ、危険だよ!」
「大丈夫。おれ、男だし。それに、どういうつもりなのか、ちゃんと確かめたい。」
憶測だから、話していないことがある。
写真と薔薇の花の件だ。
課長が置いたという証拠が無い以上、ストーキングの実証ができない。
「それ、私も行く。」
「え・・・?」
言われた言葉の意味が飲み込めずに、寺田さんを見つめた。
「私も行って、甲斐さんを守ってあげる。」
目が飛び出るかと思った。
「いやいやいや、それは困るよ。」
「なら、こうする!課長に分かんないように、こっそり話を聞いておく。で、何かあったときに、証人になってあげる。」
鼻息荒く宣言した寺田さんは、お盆の上に落ちた箸を拾ってチキンソテーに突き刺した。
「私のおじさん、警察官なの。力になれると思う。」
「えぇ?!」
どうしよう、山野さん。
とんでもないことが起きそうです!
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