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卓球台は、4つあった。
うち2つはすでに埋まっている。
「1ゲーム7点先取(せんしゅ)の3ゲームでいい?」
「もちろんです。」
先取ということは、とにかく7点先に取った方が勝ちだ。
借りたラケットを、ギュッと握り込んだ。
おれは、勝つ。
そして、つきまといをやめてもらうんだ。
「甲斐くん、俺が勝ったら俺の好きなようにするからね。」
「おれが嫌がる事でも、ですか?」
松島さんの目が据わっている。
見たことのない表情だけど、怯むわけにはいかなかった。
「やるよ。俺のモノにする。」
「負けませんから。」
おれの後ろを通ったカップルが、となりの台にやってきた。
ちらりと視線を向けると、ふたりでラケットを持って笑いあっている。
対してこちらは、火花が見えるような重い空気が漂っていた。
「・・・勝負です。」
おれは息を整えてから、一球目を放った。
------------※ ※ ※------------
ピンポン球の弾ける音と、荒い息遣い。
汗が卓球台に落ちてシミを作っていく。
激しいラリーは、見学者を増やした。
カンッ!
右のサイドラインぎりぎりのところに、松島さんの放った球が落ちた。
落とすまいと腕を伸ばすけれど、ギリ届かなかった。
「6対6。・・・次だよ。」
「負けません。おれが負けるわけにはいかないんです。」
1ゲームはおれが、2ゲームは松島さんが勝った。
このゲームを制した方が勝者になる。
ギャラリーに目線を飛ばした。
そこにある顔を見て、おれは気持ちを奮い立たせた。
山野さん・・・っ!
「おれには、好きな人がいます。その人と一生一緒にいたいと思っています。その人が笑ってくれるだけで、すごく幸せで、その人と一緒に向かい合うだけで、日々の生活に光が見えてきます。」
松島さんが顔を顰めた。
「だからなんだと言うんだ。欲しいものが目の前にあるのに、手を伸ばさない馬鹿はいないよ。」
「伸ばしても、心は手に入らないのに?」
松島さんは、作り物と分かる笑顔をおれに向けた。
「そのうち慣れるんだよ。ヒロインは、変わっていくんだ。」
松島さんの言いたいことが分かった。
アメコミのヒロインは、次の作品に代わることがある。
大人の事情で代わったヒロインに、違和感から始まる映画の序盤は次第に慣れて、最後にはすんなり受け入れる事ができる。
ギャラリーは、ひとりの女性をめぐって戦っていると思っているかもしれない。
残念ながら、それは違う。
おれ自身の人生が掛かっていた。
「やれやれーーー!!!やっちまえ!」
「そんなヤツに負けんなッ!」
ギャラリーからのヤジを受けながら、おれはグリップを握り込んだ。
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