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寒凪と嘘/寒凪
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12月25日。金曜日。寒凪。
穏やかに晴れ渡る空は風のひとつも許さず、まるで初夏のような温もりが二人を包み込む。
「…本当に、ついて来てくださるんですか?」
「車も取りに行きたいからな。それより敬語。」
「あっ…えと、ごめん…。」
晴れて恋人同士となった俺達は、朝も早くから近所の駐在所へ向かっていた。
なんと心優しい老婆が、俺の落とした財布を届けてくれて居たらしいのだ。
さいっこうのクリスマスプレゼント!と言うには元々俺の物なんだから語弊はあるが、兎にも角にも悶えるほど喜んだことに変わりはない。
「こ…このまま出勤?」
「あぁいや。暫くは有給取ってる。」
まあ、そうなるのも無理はないだろう。
同僚からあんな事をされておいて、普段通りに仕事へ行く方が難しいか…。
「だから、そのまま綾木さんの会社まで乗せて行ってやるよ。」
「えぇ?!本当?手続きに時間食ったら遅刻するかもってヒヤヒヤしてたんだぁ…。」
俺が慰さめの一言も考えられないうちに、さらりと話題を変えつつ格好良さを滲み出してくる来碧さん。
彼の頸は綺麗なままだ。
昨夜、交際をお受けする代わりに俺から一つだけ頼み事を聞いてもらった。
『…これから、一緒に過ごす機会きちんと作って
食事したり、出掛けたりして…次の発情期の時になっても、来碧さんが俺でいいと思って居てくれたら
……その時は、つ…番になって、ください。』
『っはは。綾木さんらしいですね。』
という訳で、現在来碧さんは俺の品定め中という事になる。
俺も来碧さんに見限られてしまわぬよう、出来る限り格好良い振る舞いをしたいとは勿論思うのだが──。
「綾木さん、信号!ちゃんと前見て歩け。」
「ご…ごめん…。」
「そんな俯いてばっかだといつか電柱に頭ぶつけ…」
「いっでぇ!」
「ほら言わんこっちゃない。」
「う…ごめ…。」
全くもってうまくいかないのである。
来碧さんがオカンに見えて仕方がない。
だが、それでも。
「まったく。ちょっと顔貸しなさい。」
「え、──っんむ?!」
「デコに絆創膏貼ってもらえると思ったか?
あんたのママじゃねえんだよ俺は。ばぁか。」
唇に触れた感触は、余裕ぶっておきながら
不慣れなのが良くわかる。
そういった行為に恐らく嫌悪感すら抱いて居たであろうこの人が、俺の為に、前に進もうと努力してくれている。
俺も…ちゃんと、一歩を踏み出さないと。
「よーし!とっとと財布返してもらって今夜は七面鳥とワインとシャンパンだー!」
「頼むから家まで飲まずに帰れよ?頼むから!」
「善処します!!」
「あのなあ…。」
強くて格好良い貴方に相応しい存在になれるよう
可能な限り頑張ってみようと思う。
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