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真実 3
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『行ってきます、平良さん』
「美郷・・・」
『大丈夫です、なにかあったらちゃんと助けを呼びますから』
不安そうに僕の手を握って離さない平良さんの手を解く
それからふわっと微笑みかければなんとか頷いてくれた
「来たか」
丁寧に3回ノックをすると鷹さんが自分からドアを開けてくれた
『はい、おじゃまします』
遠慮なく部屋に踏み入って鷹さんに誘導されるがまま高そうな椅子に座る
緊張はしたけれど、なにを言われても受け入れようって覚悟はもう出来ていた
でもその覚悟を上回る話を聞かされる目になる
「そろそろお前を手放そうと思う」
その一言によって目の前が真っ暗になった
『なにを、おっしゃっているんですか』
自分の声に動揺の色が滲む
それでも鷹さんは容赦なく話を続けた
「最初からそのつもりだったんだ。平良にはお前を引き取ってもらうために来てもらった」
『は・・・・・・』
「お前が見ようとした書類、あれに書いてある。ほら、これだ」
そう言って鷹さんが机の上から持ち出したのはたしかに契約書と呼ばれる類のものだった
『僕は・・・捨てられるんですか』
「違う、俺が手放すんだよお前を」
『それは・・・』
「捨てるっていうのは、もういらないってことだろ?手放すっていうのはまだ要るけれど解放するってことだと思う」
鷹さんは少し眉をひそめて、寂しそうに僕から視線を外してそう言った
いやだ、と小さく口の中から反発する声が漏れる
『いやです、だって、それなら僕はここにっ』
「駄目だ。もう分かっただろ?俺は自分の衝動を抑えられない弱い人間なんだ、だからどうか俺の前から去ってくれ」
『・・・・・・っ、』
"去ってくれ"なんて、そんな・・・
そんな悲しいこと言わないでよ鷹さん
だって僕はまだここにいたい
「ここにいたいと思うのは・・・人生の大半をここで過ごした執着と、捨てられたくないっていう恐怖が生み出した刷り込みだ」
『そんなこと・・・っ!』
「どうしても辛かったら戻ってきたらいい。だから1度、平良を信じてここを出て行ってみないか?それで外の世界を学んでおいで」
どうして、そんなに寂しそうな顔でそんなこと言えるんですか
そう思ったけれど、どうしても口には出せなかった
それは恐怖なのか、優しさなのか、もう僕の頭では判断ができない
『僕は、いらない子ですか』
「いいや、断じて違う。俺はお前に会えて嬉しかったし、今も嬉しい」
『・・・・・・っ、ありがとうございます』
最後の確認だった
ここでいらない子だって言われれば僕は残るつもりだったんだ
でも、もし本当に大切だと思われているのなら、きっとこの選択は鷹さんが下した僕と鷹さんにとって最良のものであるはずだから
だから、僕は頷いた
『頑張ってきます』
鷹さんが驚いたように目を見開く
それから力強く頷いてくれた
その目には涙が溜まっている
「ん、よく決断してくれたね。・・・でも、もう頑張らないで欲しい。お前のペースで、お前の足で歩いて行け」
『はい』
「あまり外に出たことのないお前はこれからすごく大変な思いをすることになるとおもう。そしたら、止まってもいいから。どうか生きることを諦めないで」
『はい』
「ん、いい子だ」
言いたいことは言えたんだろう
鷹さんはスッキリとした顔をしていた
「急だけど、明日の朝旅立ってもらうよ」
『・・・・・・。分かり、ました』
いつの間にか頬を伝う涙を鷹さんは困ったように笑って拭ってくれた
その優しい手つきが余計に涙を増やしていることなんてしらないんだろうな
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