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秘密の過去4
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『貴方は・・・平良さんのお姉さんだったんですね』
深い夢の中で、きっといるであろうあの時助けてくれたお姉さんに声をかける
『ずっと分からなかった。どうして僕なんかに治癒の能力があるのか・・・ずっと恨んでた。治癒の能力なんか無ければ僕は両親に見捨てられることなく、鷹さんの暴力に曝されることもなく普通に過ごせていたんだろうって』
『でも、違ったんですね。僕はどちらにせよ普通には生きられなかった。あの両親の元で生活していたらもしかしたら殺されていたかもしれない』
『だから、助けてくれてありがとうございます』
見ているのか分からないけど空中にそっと微笑む
きっと聞いてくれているという確信を持って
たしかに僕は人生に絶望していた
この治癒さえなければもう少し普通に過ごせたかもしれないと何度も思った
でも、もうこの能力が無ければ僕じゃないとすら思えるほどに馴染んでしまっている
それほどまでに愛着さえ湧いているのだ
「キミは偉いね」
何処からかリンとした鈴のような声が聞こえる
あぁ、この人だ
この人が平良さんの・・・
どこか懐かしくて、でも新鮮な声にそっと耳を傾ける
「私だったら感謝なんて出来ないかも。だってキミを苦しめた能力なんだから」
『苦しめられたのは事実です。でも、助けてもらったのも事実だから』
「・・・・・・そう。」
『もう、この能力無しの自分なんて考えられないんです。治癒があったから僕は僕として生きてこられた』
僕はきっと平良さんのお姉さんがいるであろう空中に微笑みかける
「それは違うわ。それに、そんなこと考えてはダメよ」
『・・・え?』
開き直って治癒を受け入れようとしていた僕を平良さんのお姉さんは厳しい声色で否定する
僕の頬に温かいなにかが触れた
きっとお姉さんの手だ
「私はもう行かなくちゃいけないの。だからあなたに与えていた能力は消えてしまうわ」
『そんな・・・!』
「貴方が和音さんと和解したあたりからかしら?少しずつ自分の力が弱まっていることに気づいたのは」
見えなくても分かった
今平良さんのお姉さんは寂しそうに笑っていることに
だから僕はこの話が本当だと信じざるを得なかった
『そっか・・・じゃあ僕、普通の人になっちゃうんですね』
「ふふっ、そうよ。・・・なにも悲しむことなんてないわ。寂しいかもしれないけれど、それが本来の貴方なんだから」
『でも・・・・・・』
治癒の能力を無くして僕は愛されることなど出来るのだろうか
今までば暴力に耐えることで自分の意味を見出していた
自分はいくらでもサンドバッグになれるのだと
それだけで意味があるのだと
歪んでいるのは分かっている
でも、ちゃんと愛とかを教えられてこなかった僕にはこれしかなかったんだ
「貴方が不安なのは痛いほど分かるわ。・・・でも、甘えてはダメよ。人間として生まれ落ちたからには人間として生きていかなくちゃいけないのだから」
『・・・・・・。』
「厳しいことを言うようだけど、でもそれが当たり前で、大切な秩序なの。」
『・・・そう、ですよね』
途端に目の前が真っ暗になったかのような不安が僕を襲う
今までペット以下の存在として監禁されて生きてきた僕に人間として生きていくことを望むのか?と訳の分からない憤りも感じた
今更そんなことを望まないでくれ
だったら普通の皆と同じだけの愛を僕に与えてくれよ、とも
だけどそれを見透かしたようにお姉さんは言った
「世界は理不尽なのよ」
と
「だって現に私は殺された。まだまだやりたいことだって沢山あったのに・・・そういうものなのよ。でも、それでも私は人生は素晴らしいと思う。思いたいわ・・・だって和音さんに会えたんだもの。素敵な弟にも出会えた。そして貴方にも。」
『それだけで・・・?』
「それだけ・・・?とんでもないわ。だって生まれてこなかったらゼロだったものよ?」
『・・・・・・』
「それに、まぁ楽しかったわ。そんなもんよ、きっと人生なんて」
グッ、と見えない力に背中を押される
もう目覚めてしまう時間だとなんとなく分かってしまった僕は目に力を込めてなんとか涙を堪えた
これがこの人に会える最後だって気づいたから
「大丈夫よ美郷くん。貴方には頼もしい味方がいるじゃない」
『平良さん・・・』
「そう。それにいざという時は和音さんだっているわ」
『・・・うん、たしかに!』
「でしょ?・・・胸張って生きなさい!貴方なら大丈夫だから」
「折角この世に生まれ落ちたんだから、やりたいことを自分のやりたいようにやって満足してからこっち側に来るのよ!」
『・・・・・・はい!』
あぁ、目が覚めてしまう
堪えきれなかった涙が頬を伝うけれど、寂しくはあるけれど、もう絶望などしていなかった
どこか吹っ切れたような気さえする
この夢の内容をどうやって平良さんに伝えようか?
そんなウキウキした気持ちで目覚めた僕はこれから先も歩いて行けそうだと確かな希望に満ちていた
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