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皐月、丑の刻
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このところ、おかしな天気が続いており、どうも本調子でない。
先一昨日からは汗ばむほどの陽気が続き、皆が皆、一足早い衣替えをしたばかり。
かと思えば、今日のように単の着物では肌寒く感じる程にもなり——
濃い緑の葉は、雨露の重みに垂(しだ)れたり、陽を集めたりで、さぞ忙しい事だろう。
僕は大して差し障りないが、あの人は相当参っているようだ。
情けない顔で、暑いだの寒いだのとこぼし、この頃は早々と床に就いている。
過ぎたお転婆を戒めんが為、常日頃から弱じじいと罵ってやるのだが、あの人のことだ。 そのうちどこかで風邪でももらってくるだろう。
ざまあない。
そうなれば、床に臥したあの人を、嘲りがてら冷やかしに行ってやろう。
汗と洟でどろどろになり、更にみっともない有り様のあの人の顔を見に。
僕を見るなり、あの人は驚くだろう。
そして僕が持参した瑞果を、見舞いの手土産かと勘違いし、ああ、と歓声を上げかける。
そうしたら、その目の前で、桃をうまそうに頬張ってやろう。
がっかりするに違いない。僕は、あの人のそういう表情が好きだ。
あんまり物欲しそうな顔をしていたら、僕の額の汗を拭って、嘗めさせてやるのもいい。
一言でも不満を漏らそうものなら、三度引っ叩いて黙らせる。
それでも、恨みがましく呟いていたなら、その時は。
皐月の空を、あの人のお気まぐれや心変りに準えて、句の一つもひねってみせよう。
そうして日がな、あの人の悔しそうな、拗ねた顔を見つめられたらいい。
了
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