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信じられない。
山野は思わず顔を覆った。
覆ったところで現実は変えられないし、すでに知った時には甲斐くんは戦へと出陣している。
書類の海に沈み込みそうになりながら、山野は殺気だった目を同僚へ向けた。
「な、なに?!」
一番に反応してくれたのは、先日、車を貸してくれた愛すべき斎藤先生だ。
「とんでもない事態になったんだ。」
「え?!患者?!」
首を振ると、あからさまにホッとした顔になった。
「もー、やめてくれよ。医療過誤かとビックリしたじゃねーか。」
「そんなことはしないよ。な、今日は午後から非番だったよな?」
斎藤先生は、泣きそうな顔になった。
「帰れなくてカルテ書いてんだぞ。これ以上なにをやらす気だ。」
山野は思いっきり息を吸い込んだ。
そしてその息をそのまま声に変換した。
「一生のお願い!ちょっと出てくるから、その間だけ代わってください!」
血走った目と大きな声の迫力に、周囲の医師はギッと椅子を鳴らした。
「なんでなんでなんで?!」
「うちの馬鹿が無鉄砲状態で走り出しちまったんだ!」
分かんない分かんない!
思いっきり首を横に振られたが、1分たりとも無駄に出来なかった。
「回収したらすぐに戻ってくるから、その間だけ待機してて欲しい!」
午前中は外来、午後からは緊急事態に備えての待機の予定だった。
幸い、救急の連絡は今のところ入っていなかった。
「じゃ、よろしく!」
「よろしくじゃねぇよ!」
ああ言うが、斎藤先生は絶対に待っていてくれる。
確信があった。
医局を飛び出して、階段を走り降りた。
手には財布と携帯。
その携帯にメッセージが届いていたのだ。
『犯人は松島さんだった。話をつけてくる。』
あの、馬鹿!
俺に簡単に押さえ込まれるくらいの力しかないのに、襲われたらどうするんだ?!
『大丈夫だから、安心してね。』
なにが大丈夫で、なにを安心したらいいのかが分からない。
夜間出入り口から飛び出した山野は、待機していたタクシーに飛び乗った。
「の、バッティングセンターまで。」
「はい。」
焦りすぎて白衣のままだったことに気がついた。
絶対に、泣かす!
絶対に、懲らしめる!
誰を、という問いには自信を持って言える。
甲斐くんを徹底的に泣かす!
今後、こんな寿命が縮まるような思いをさせられないように、心底懲らしめてやるのだ。
震える手で拳を握ると、山野は外の景色をギッと睨みつけた。
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