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めちゃくちゃ腹が立った。
負けを負けと認めず、ひとの所為にする。
自分は悪くない、正しいと主張し、暴力を振るおうとする。
本当なら、殴ってやりたかった。
外科医でなければ、甲斐くんを追い詰めたヤツに、拳を見舞いたかったのだ。
だが、俺は外科医だ。
来週も手術の予定が入っている。
命を救う医師が、手に怪我を負ってはならないのだ。
人の生死に直面する外科医は、自分を律し、最悪の事態を想定する能力が必要だった。
だからなのか、怒り狂う自分を冷静に見ている自分もいる。
「おい、どういうつもりで、つけまわすんだ。」
俺が甲斐くんと付き合っているのを察したのか、松島は床に寝転んだままヘラリと笑った。
「可愛い子だ。自分のものにしたいと思ってなにが悪い。」
腹が立って仕方がない。
その余裕ぶった仕草に、更に怒りが募った。
「だからGPSを仕込んだのか?」
甲斐くんの行動を監視する、汚い行為。
その行動を見ながら、何をしていたのか想像するだけで、目が真っ赤に染まる程、怒りが湧きあがった。
「GPS?なんのことだ?」
・・・何だと。
「誤魔化すな、お前が仕込んだんだろう?」
不思議そうな表情は、嘘を言っているようには見えなかった。
「それは違うな。」
緩く首を振る様子に、確信を持った。
「モテる彼女を持つと苦労するな!写真と花は認めるよ。可愛いものは愛でたいからね。」
・・・コイツ以外にも、甲斐くんを好きなヤツがいるってことか。
花と手紙と写真は、松島。
GPSは、他の誰かと言うわけだ。
「なあ。なんで俺だって気付いたんだ?」
甲斐くん、言うな。
まだGPSの犯人が分からない。
今もこの場所に来ている可能性だってある。
「・・・おれ、」
甲斐くんの目を見つめると、彼は分かったように小さく頷いた。
「花言葉の話をしたとき、花の種類は言わなかったはずなんです。後から考えて、松島さんに薔薇って言ってないのになって。」
・・・へぇ。
甲斐くん、分かってたのか。
「・・・そっか。な、甲斐くん。やっぱり俺のモノにならないか。頭の良い子は大好きなんだ。」
松島の身勝手な言い分に、足に力が入った。
「いやです。ごめんなさい。つきまといも止めてください。」
甲斐くんがキッパリと断ると、松島は笑い出した。
「気持ちに蓋は出来ない。もしかしたら、俺の方を好きになる可能性もあるだろ?」
「可能性はありません。」
その通りだ。
俺も甲斐くんを手放すつもりは、1ミリだって無かった。
飄々とした松島の様子に、本格的に蹴りを入れる必要があると思った瞬間、高尾がシレッと入ってきた。
「話は終わったかしら。足を見せて。」
高尾が、座り込んだままの松島の足を力一杯掴んだのが分かった。
「痛ッ!」
「あら、膝が割れているのかしら?」
白々しい。
医師や看護師、そして療法士は人体の構造に詳しい。
どこをどう触れば、痛みを感じるのか知り尽くしている。
「ぃたたたたたたた!!!離せ!」
全く、俺が松島を蹴り殺すとでも思ったんだろうか。
だが、高尾が間に入ったおかげで、気持ちが落ち着いた。
「あら、あなた遠野先生のところの方じゃなくて?」
消化器内科同士、繋がりがある。
お互いの病院に訪問する機会は無いが、高尾の場合、大学時代、遠野先生に何回か教鞭を取って頂いた事があったらしい。
「遠野先生には、大変お世話になっているの。」
高尾が不気味に笑うのが見えた。
「奥様はお元気かしら。奥様主催の展覧会にいつもご招待いただいているの。久しぶりにお会いしたいわ。」
それは初めて聞いた。
「韓流ドラマが大好きな奥様に、卓球の試合の話をしたら、どんな顔をされるかしらね。」
「は、離せッ!!」
真っ青になった松島は、高尾を突き飛ばして逃げだした。
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