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こんな時、馬のような視野が欲しくなる。
背後から、視線を感じるのだ。
・・・清水さんだろうか。
いや、役職のある現役の警察官だ。
そうそう甲斐くんには付き合えないだろう。
ここにいるのは、甲斐くん、山中さん、寺田さん。そして、高尾だ。
急に呼び出した高尾の知り合いな訳はない。
そして。
『GPS?なんのことだ?』
松島が、心底不思議そうに聞いた。
あれは、本気の疑問だ。
精神科医ではないから、松島の心は分からない。
だが、あの目は知らないと言っていた。
つまり、甲斐くんを追う誰かがここに来ているという事だ。
思いっきり足を床に打ち付けたい程の苛立ちが、俺を襲った。
・・・全く、甲斐くん!
モテやがって!!
腹が立つ。
めちゃくちゃ立つ。
そりゃそうだ。
甲斐くんは優しいし、穏やかだし、顔立ちも綺麗だ。
モテないはずは無い。
クソッ、絶対に負けられない。
「高尾は案外、怖いのな。」
「助けてもらって、それはないでしょ。」
尻もちをついた高尾の手を引っ張った。
そして助け起こした耳元で囁いた。
「俺の後ろに、誰か怪しいヤツがいないか。」
「・・・あんた以上にヤバイヤツは、いなさそうよ。」
なるほど。
見た感じ、それと分かる陰湿な感じのヤツはいないということか。
「外で見ててくれ。」
「分かった。」
チラリと視線を動かすと、甲斐くんが山中さんに頭を下げていた。
「あの、お礼をさせてください。」
「それは俺からもお願いします。うちの甲斐が申し訳ありませんでした。」
甲斐くんが巻き込んだふたりが、怪我をしなくて本当に良かった。
だが、これは結果論であって、怪我をする可能性は非常に高かったのだ。
これも、お仕置きのひとつに加える必要がある。
「これから職場に戻る必要がありますので、改めてまた伺います。」
滅多に出すことのない名刺を、財布の中から取り出して渡した。
知り合いだが、周りには初めて会ったように見せる必要があるからだ。
「あ、あのたかお先生も、すみませんでした。」
「いいのよ、今度ゆっくりね。」
俺の焦燥感を知ってか知らずか、甲斐くんは今度は高尾に頭を下げている。
高尾は甲斐くんを安心させるように微笑んでから、片手を挙げて卓球場から出て行った。
「あ、あの、山野さん!」
何か言いたげの甲斐くんの気持ちも分かっているが、もう今日で全て解決したかった。
そうそう職場を飛び出す事なんて、できないのだ。
・・・斎藤先生、本当に申し訳ない。
今頃俺の代わりを勤めてくれているはずの斎藤先生に、心の中で頭を下げながら、甲斐くんの口を塞ぐように、キツイ口調で話しかけた。
「甲斐くん、これから甲斐くんは真っ直ぐに家に帰るんだ。」
背後のギャラリーに聞こえるように、ハッキリと告げた。
「分かった?」
「は、はい!」
返事をする際に、いきなり敬礼した甲斐くんに思わず吹き出しそうになったのを精神力で抑え込んだ。
「はい、帰るッ!」
「はい!」
賽は投げられた。
後は、でたとこ勝負だ。
みんなにぴょこりと頭を下げてから走り去った甲斐くんの背中を見てから、俺は今日のキーパーソンを見つめた。
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