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ソイツは甲斐くんが部屋に入ったのを見届けると、アパートの前でしばらく立っていた。
・・・見張っているのか?
フラフラと生垣に近寄ると、何処かへ電話している。
・・・仲間でも呼ぶつもりなのか?
流石に共犯者が増えると、厳しい。
いよいよ清水さんに頼らなければならなくなる。
・・・どうする、電話するか?
本職の警察官だ。
本来なら任せておいた方が良いのかもしれない。
だが、姪の寺田さんが連絡するのとは訳が違う。
完全に事件性が感じられないと、ただ迷惑を掛けるだけだ。
いつでも連絡できるように、準備だけはしておこう。
清水さんの番号を、着信履歴の一番上に表示されるように整理して、電柱の影から男を見つめた。
・・・アイツ、何を考えているんだろう。
電話を切った後も、しばらくボーッとしていた。
ずっとあの場にいるつもりだろうか。
時計を見ると、すでに病院を飛び出して2時間が経過していた。
予定の手術のない土曜日だから良かったものの、流石に予定が入っていたら出てこれなかった。
これは、仕方がない。
俺は医師なのだから。
人の命を救いたくて医者になった。
がむしゃらに働いて、生きてきた。
命を救うたびに、喜びが満ちる。
命を取り落とすたびに、頑張らねばと自らを叱咤した。
人の体を開ける。
人の体を引き裂く。
まだ俺には、出来ないことも多い。
まだ俺には、救えないことも多い。
傷付き、息絶える人が少しでもいなくなるように。
術式を覚え、実践し、快復していく様に寄り添いながら、目の前にある命を救いとるために手を伸ばす。
だから、まだこの総合病院から離れられない。
もっと力をつけて、もっと苦しむ患者を救っていきたいんだ。
そして、甲斐くん。
甲斐くんと一緒に人生を歩んでいきたい。
そのためには、今後の憂いを断つ必要があった。
「あ。」
動き出した。
俺もゆっくりとついていく。
何をするつもりなのか、そして、何を考えているのか分からない。
ストーキングをしてしまうくらい、追い詰められたことはないからだ。
ただ。
そう、甲斐くんが自分のもとを離れてしまったら・・・。
その時は、もう一度振り向いて欲しくて追わずにはいられないだろう。
まだ付き合いだして1か月程。
それでも甲斐くんがこんなにも愛おしくてならない。
恋と愛の境い目は何だろう。
甲斐くんが狙われていると考えるだけで、どうしようもないくらい怒りが湧いてくる。
はじめて山中さんを見た時も、腹の奥がグツグツと煮えたつような感じがした。
これが執着というものだとしたら、ストーカーの気持ちも分からなくもなかった。
ただ、相手が悪い。
甲斐くんでなければ、どうでも良い。
でも、甲斐くんだから、許すことはできない。
彼は、俺のものなのだから。
大切なパートナーなのだ。
「・・・。」
コンビニか。
飲み物のコーナーに立つ犯人を見つめた。
絶対に、甲斐くんは渡さない。
絶対にだ。
俺は拳を握りしめた。
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