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こういったセンシティブな内容は、人前で言うには憚られる。
例えば異性同士の場合、場所を考えずに告白する事は、好意的に見れば情熱的だし、悪意を持って見れば、非常識と括られる。
ただそれだけだ。
だが、同性同士の告白ともなれば、好奇心、あるいは嫌悪感を持って見られる。
昔と比べて、明らかな悪意は少なくなった気もするが、全くないと言ったら嘘になる。
LGBTの問題は、根深いのだ。
だいたいにおいて、この国の法律こそが差別を生んでいる。改正についての話し合いは、あまりにも進んでいなかった。
そんな中で、俺たちは生きている。
ひっそりと、だ。
なのに、甲斐くんは堂々と俺に愛の告白をしてくれた。
その気持ちと覚悟に、目頭が熱くなった。
寺田さんが横でごちゃごちゃと言うのが聞こえたが、その言葉は全て耳を素通りしていく。
俺の目には甲斐くんの真剣な眼差しと、紅潮した頬しか見えなかった。
寺田さんと山中さんが、手を取り合って去って行くのが視野の端に映ったが、追いかける気にもならなかった。
「信じてくれる?」
甲斐くんの、おずおずと俺を見上げた姿に、気持ちを全部持っていかれた。
「もちろん。・・・一瞬でも疑って、ごめん。」
「ううん、なんか変な状況になったね。」
植え込みの花壇に、ふたりで並んで座った。
「ね、・・・どこから話そうか。」
「あれだな、メガネのことだな。」
簡単にしか聞いていなかった、甲斐くんの交友関係を改めて押さえておきたかった。
「中島くんは、単なるお友だちで、趣味仲間。盗撮するようなタイプじゃないから、そこは信じて欲しいんだけど。」
ため息が出そうだった。
純粋で、人をすぐに信じるお人好し。
30を過ぎて、何故ここまで純粋でいられるのか不思議でならない。
「・・・あいつ、ずっと中継してたって言ってたぞ。」
「そこが分かんない。言ってなかったと思うよ。」
甲斐くんは、俺の眉間に手を伸ばして優しく撫でた。
「いや、言った。」
その手を掴んで、顔を覗き込んだ。
「GPSの話のときに、言った。」
「えっと・・・。」
甲斐くんの視線が彷徨っている。
思い出そうとする様子を、じっと見つめた。
「アイテム?」
甲斐くんのポツリと漏らした言葉に、俺は眉をひそめた。
「あのね、山野さんって戦闘系のゲームしたことありますか?」
たまに甲斐くんが分からなくなる時がある。
さっきのコショウ爆弾然り、力士ウェア然り、今回の話然り。
甲斐くんのことを知ったと思えば、知らない一面を出してくる、一筋縄ではいかない不思議ちゃんだ。
「いや・・・うちは厳しくてゲームは与えてもらえなかったから、一回も無いよ。」
目が悪くなる。
頭が悪くなる。
そんな理由をつけて買っては貰えなかった。
「ゲームセンターも?」
友だちから誘われた事もあるが、塾に水泳、英会話、バイオリンのレッスンで毎日余裕なんてなかった。
「ぬいぐるみを取るやつなら、ある。」
大学の時に、誘われて行った。
それから、昔付き合っていた子とプリントシールを撮った事がある。
それくらいだ。
「えっとですね、おれと中島くんがやってるゲームは、」
甲斐くんの説明では、戦争ゲーム、いわゆる陣取り合戦をしているらしい。
「たぶん、インしないおれを待つ間に、ブロック中のアイテムを拾って、基礎強化をしていたんだと思うんです。」
「ゲームで基礎強化?」
「はい、アイテムには武器やライフと言って、敵からやられた時に回復できる魔法みたいなものがあるんです。」
「・・・へぇ。」
現実には有り得ないアイテムだ。
それさえあれば、医者はいらない。
「中島くんは、山野さんから拾い集めたアイテムを聞かれたから、こう答えたんです。」
あの時、俺はこう聞いた。
『アイテムって何だ?!GPSか!』
甲斐くんは、すぅっと息を吸った。
「銃とライフだって。」
「・・・え。」
じゅうとらいふ?
「銃とライフを、ずっとライブと聞き間違えたんです。」
「ええーーーーー?!」
あまりの驚きに、仰け反った。
背中に、植え込みの枝がバシバシ刺さる。
「・・・マジか。」
「マジです。」
ああ、穴があったら入りたい。
銃とライフが、ずっとライブだなんて・・・!
頭を抱えた俺の背中に、甲斐くんの温かな体が被さった。
「だからね、中島くんは盗撮してないです。ゲームの話しか、してないんですから。」
「だけど・・・。」
中継は、そうかもしれない。
だが、俺は忘れてはいない!
アイツは、あのメガネは!
『サバイバルゲームでわたしが守れるようにと封筒を渡したではござらぬか。』
『カバンを変えたのか?』
そして
『ずっと家に居たから、体調を崩されたのかと思っていた。』
絶対に!
絶対に!!
「・・・メガネがGPSの犯人だ。」
ポカンとした顔を見つめた。
そして甲斐くんの体を引き寄せると、ぎゅっと抱きしめた。
絶対に、絶対に、メガネはストーカーで間違いない。
甲斐くんは、いや、この子は、俺が守る!
公衆の面前で告白してくれた甲斐くんを守るために、俺は決意を新たに、メガネのいる甲斐くんの部屋の方向をキッと睨んだ。
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