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悪魔の純愛
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翌朝、部屋の扉が開く音で目が覚めた。寝床としては劣悪な床板の上で数時間を過ごした為に身体の動きが痛くそして鈍くなっていた。
「お兄様、今日はこのお洋服なんていかがでしょうか」
「うん。それが良いよ。りでるによく似合っている」
「そう言って頂けると、なんだか、とても……えっと……その……」
「――『嬉しい』その気持ちはそう伝えるんだよ」
「はい。お兄様。私、とても嬉しいです」
兄と妹がその関係を越えたような、それ未満のような、そんなぎこちない雰囲気の話をしていた。一般の目を通すと、二人はなんだか、かみ合っていないように見えるのだが、Kにとってその兄妹は蜜に満たされた甘い関係に見えたのだった。安心して、自然の姿で接することのできる相手。Kが最も望んでいる関係性がそこにはあった。
愛に溢れた兄と妹は部屋を出た。
用心に用心を重ねてKはその後、二時間は衣装部屋に留まることにした。二度、玄関の扉が開閉し、最後に錠が落とされたようだったが、昨夜の少女の発言によるとまだこの家に数人の影が残っていると考えるのが妥当であろう。列挙していた人物は、先生、奥様、兄、メイド――。兄は昨夜から目撃している彼を指しているのであって、残りは三人。しかし、なんとも家族というよりは寄せ集めのような呼び方だった。とは言え、Kがいくら訝しんだ所で事の真相を見つけ出すことはここでは不可能であった。あまりに情報が偏りすぎていた。今は真実を知るよりも己の欲望を満たす為の足がかりと障害の排除が最も優先されるべきことであった。
状況が落ち着くまでの間、何もしないでいるにはあまりにも時間を持て余していたので、部屋を見回していると、太陽の光が窓から差し込んできており、少女の衣装がよく見えるようになった。そこにはエプロンドレスが色形を変えて数十着。チャイナドレスもスリットの長さや袖の長さなどどれも同一のデザインではない衣装が所狭しと並び、もこもことしたナイトウエアも洗い替えに困らない程の数があった。このように少々いかがわしい雰囲気のお店のラインナップのような衣服もあったのだが、清楚な小花柄のワンピースやカジュアルなキャップにTシャツそれにジーパンなども同等数あったのだった。少女にとって衣装の趣味が満遍に分散しているのか、それとも兄もとい彼が少女を着せ替え人形にしているのか、はたまたそのどれでもないのかはわからないのだが、服飾が好きな女性にとってここは宝箱のような場所であるに違いない。あまり肌の露出が多いものをK自身は好まないのだがその要望に応えるも応えないも可能な衣服の数であった。――一体どういうタイミングでバニーガールの格好をするのだろうか。これには薄いストッキングを合わせて欲しい。
そんなこんなしている内に、日も高くなり、当初の予定の二時間を過ぎた頃だった。時計なぞなくとも影の位置から時刻を判断するのは余裕であった。こういう時の為にKは天文学を知り得ていたのかもしれない――のかどうかは知らないが、知識というのは突然役立つのだから、やはり学問というのは尊重されるものであって、我々はそれを若い内から学んでいるのだろう。Kにはその知恵の使い方を一緒に教えるべきだったのかもしれないが。
人の気配は感じられず、Kはようやく部屋の外へと出た。廊下の壁伝いに部屋の扉が並んでおり、衣装部屋の隣が彼の部屋、そこを直角に曲がって廊下の突き当たりが少女の部屋、反対側の壁にも扉がざっと立っていた。いったい何部屋あるのだろうか、この屋敷は。外から見た窓の配列の均一さは家の内部にまで達していたようだ。
人間とは言え動物であるのだから、栄養は従属によって摂取するものであり、いくら太陽光を浴びたところで腹は膨れない。毒を食らわば皿までだ。皿に乗っておらずとも見た目はこの際、眼中にない。ただ何か口にしたくなった。冷蔵庫を漁って、気が付かれない程度に食材をいただきにあがろうと、キッチンへと向かった。そこには立派な炊事場が広がっていた。ある程度の調理・料理をするにあたっては何一つの不自由もない設備が備わっていた。そして、ちょいと腹を満たすには十分すぎる程の食材も揃っている。缶詰や乾麺、レトルト食品などが少女の衣装同様におびただしい数をストックされていた。一体ここで何日籠もろうというのかという程に、日頃から震災時を想定しているかのように、日持ちのする物から足の早い物までありとあらゆる食べ物が取りそろえられていた。こんなにあるのなら、たらふく食べたとしても気が付く筈がない。手近にあった袋菓子を手に取ろうとした時――。
「おおおおおお客様っ。これは失礼を致しましたっ……」
この家に入って以降、二度目の心臓の吐き出しだった。大道芸人でもないのだからそう簡単に重要な内臓を弄んでもいられないのだから、驚かさないでいただきたい。
そんなKの心中をよそに、それ以上に慌てた様子の女性がどうしたらよいものかと逡巡し、泡食った様子でおろおろとしていた。彼女の制服は丈の長い好感の持てる黒と白のツートンが美しいメイド服であった。頭にはフリルがあしらわれたカチューシャを携え、髪はお下げを太い三つ編みに結っている。大きな垂れ目が可愛らしい。胸はそんなに大きくは無いようだ。いやむしろ貧乳の部類に入るのかもしれない。あの妹の方が発達は良かった。しかしこれはこれで奥ゆかしくて、成長のさせがいがありそうだ。首元のリボンも二つの凸がない場所で、自由にその足を伸ばしている。
「ご主人のお客様でいらっしゃいますよね……」
このメイドは頭の冴えない子なのだろう。SPでも無いのだからそれで良いのかもしれない。その方がKにとっても好都合だったからだ。それでは利用させていただくことにしようと、君の言う通りだと話を合わせてやった。
「今、お茶を淹れますので、客室の方でお待ち下さい。えと、お約束は何時でございましたか?」
ご主人とは一体誰を指しているのかは不明だが、人と会うのは避けたい。
「ちょっと読ませて欲しい絶版本を彼が持っていると聞いてね。自分は都合がつかないから、メイドに話をして部屋に通してもらっておいてくれと言われたのだが、君は聞いていなかっただろうか」
メイドは豆鉄砲を喰らったかのように目を大きくくりくりと見開き、事態に翻弄されているようだった。聞いている筈がない。Kが今しがたでっちあげた話だからな。
「そうでございましたか。それは重ね重ね失礼を致しました。それでは、どうぞお二階へご案内致します」
「ああ、その前に。君は料理は得意かい」
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