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両片想い2
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「坊っちゃんには悪いが、明日は朝一で会議がある。だからあまり無理なことには付き合えない。頼むからほどほどにしてくれ」
「だったら、ほどほどにさせるいいわけくらい、今のうちに考えておけよな」
「理由がさっぱりわからないのに、考えられるわけがないだろ……」
手早くカードキーで開錠し部屋に入るなり、掴んでいた手を引っ張り、遠心力を使って放り投げる。俺のぶん投げた勢いが、課長のつんのめるような足取りになって表れた。
乱暴なことをしたくない気持ちとイライラがないまぜになるせいで、課長に向かって不機嫌な声色で話しかける。
「……ふたりきりのときくらい、名前で呼んでもいいのに。坊っちゃん呼びはやめろよ」
「くせになってるから。それに下の名前で呼んだら、なにかあったときに面倒なことになる」
「親父の口利きで、ウチの会社に入ったことがバレるのが怖いのかよ。情けない……」
離れている僅かな距離が、俺たちの心の距離のように感じた。俺から近づくと、途端に離れていく。こんなにも好きなのに。どうしようもないほど、愛しているというのに。
「課長……、いや先生は、嫌々俺と付き合ってるわけ?」
課長との出逢いは、俺の成績が伸び悩んだ中学3年のある日だった。役員をしている社員の噂話がきっかけで、当時大学生だった課長を親父が家庭教師として雇い、週一のペースで家へと招き入れた。
男なんかにまったく興味がわかなかった俺を、互いに挨拶を交わしたあとで目を合わせた瞬間から、なぜだか一気に心が奪われてしまった。柔らかく微笑みながら、じっと見つめられるだけで、なにかが煽られる気がした。
何度も顔を合わせるうちに我慢できなくなり、隠しきれない欲情を勉強する間にぶつけたりもした。それなのに――。
『坊っちゃん、いい加減にしてください。未成年の貴方になにかあったときは、俺が責任をとることになるんですよ』
「先生がほしい。好きなんだ!」
『色恋云々を言う前に受験生なんですから、勉強くらいしっかりしてくださいね』
中3のガキの戯言なんかに、大学生の先生がまともに取り合ってくれるはずがないのはわかっていた。だけど好きだという想いに駆られていた俺は、告げずにはいられなかった。
先生のことが好きだからこそ、すべてが欲しくなったし、他のヤツに触れられたりしていないかとすごく心配で、訊ねずにはいられない。
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