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両片想い5
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***
(お客様にお茶を出すのって、新人の女子社員がすることじゃないのか!?)
新人として入社した二日目、給湯室にこもった俺は、淹れたことのないお茶出しに悪戦苦闘していた。苛立ちまかせに急須に茶っ葉を入れた途端に、背中になにかが当たる衝撃を受ける。そのせいで足元がふらつき、台所に両手をついてやり過ごした。
『坊ちゃん、俺の商談を壊すために、渋いお茶をわざと淹れようとしてるだろ』
俺の肩に顎をのせながら、ぼやくように先生が呟く。背中に感じる温かみに、苛立っていた心がほっとした瞬間だった。
「せっ……。課長ってば、こんなところで油売ってて、大丈夫なのかよ?」
先生と言いそうになり、口を一旦引き結んでから、文句を言ってやる。頭の中では何度も課長呼びしてるのに、不意に現れたせいで、いつもの呼び方をしそうになった。
『おまえと一緒に入社した女子社員と、和やかに談笑中だ。俺よりも若い女の子のほうが、向こうさんも嬉しいだろうさ』
俺の脇から両腕を伸ばして、急須に入れたばかりの茶っ葉をシンクの中に投げ入れた。
「ちょっ、せっかく入れたのに!」
『やったことのない仕事は誰かに訊ねるなり、ググって調べたりして、少しでも完璧にこなす努力をしろ』
言うなり先生の柔らかい唇が、頬に押し当てられた。
「課長……」
(そんな子供じみたものじゃなくて、濃厚なキスがしたい――)
『先方を待たせてるんだ。早めに用意してくれ』
「はい、わかりました」
『おまえが淹れたはじめてのお茶、期待してるからな』
身を翻すように出て行ったあとに漂う、嗅ぎ慣れた先生の香水。消えた温もりと一緒に、その香りもどんどん薄くなる。それはまるで俺に対する、先生の想いのように感じてしまった。
期待されたら応えたくなる。だから一生懸命に頑張った結果、褒めてもらえる。ご褒美は『よくやったな』という言葉と微笑み、それと先生の躰。俺が強請れば『好きだ』と言ってくれるけど、自主的に先生の口から、想いを告げられたことがなかった。
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