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両片想い37
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『課長……』
まるで恋人を見つめる視線のまま、白鷺課長に顔を寄せた社長の息子。
こっそり覗いている目の前の出来事が、ドラマか映画のワンシーンのように見えてしまったのは、ふたりそろって俳優並みの男前だからだろう。
場違い感を肌に感じて、音を立てないように退いた刹那、白鷺課長が勢いよく給湯室から出てきた。
(――あれ? いい雰囲気だったはずなのに、どうして?)
一瞬見えた横顔が、歪んだものに俺の目に映った。気になってあとをつけると、廊下の壁に背を預けながら胸元を押さえる、つらそうな姿を見かけた。
声をかけるべきか否かを迷いながら、部署の扉から不自然な様子を窺っていると、隣の課の派遣社員の女が靴音を立てて、白鷺課長の傍に駆け寄った。
イケメンな社員だけ積極的に話しかけて、ここぞとばかりに媚を売ってばかりで、あまり仕事をしないという悪評が立っているだけに、誰も相手にしない女だった。
当然この噂は、白鷺課長だって知っているはず。それなのにつらそうな表情を一瞬で消して、嫌な顔ひとつせずに、笑顔で対処していることが驚きだった。
そこを踏まえて、嫌われている女に大人の対応ができる白鷺課長のメンタルの強さを考えたら、自分よりも年下の男を手玉に取るなんて、造作のないことのような気がする。
社内にいる独身女性の憧れの的になっている白鷺課長が、社長の息子とデキているっぽい感じだったのに、つらそうな表情を隠れてしていた事実は、まるで片想いをしてるみたいに見えなくもない。
そんなことを考えながら、白鷺課長と社長の息子の逢瀬を日々チェックしていたけれど、なかなか尻尾を現さなかった。
そんな矢先に垣間見た、白鷺課長のため息と怠そうに腰を撫で擦る姿。そして目の前にいる社長の息子の左頬の腫れは、いったいなにがあったのか。
(あまりに謎すぎて、俺の推理力じゃ想像できやしない)
「桜井くん、なんだか左頬が腫れているように見えるんだけど、相当痛そうだね。大丈夫?」
神妙な顔でパソコンの画面を見つめる社長の息子に、思いきって声をかけた。すると離れた席にいる白鷺課長に、さりげなく横目で視線を飛ばす。
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