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後悔
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「ぅ……ん……」
目を開くと、そこは見慣れない天井……と言うか、テントだった。
「気がついたか」
近くで聞こえたのは、男の人の声。
僕は……どこで何をしてたんだっけ。
お父さんと、お母さんは……?
瞬間、眼裏に鮮明に蘇る。
父は、その腕を、足をもがれ、魔物に腹を食い破られていた。
母も同じだ。
そこまでで、やっと自分がどこで何をして……いや、されていたのか思い出す。
起き上がろうとした途端、全身にビリビリと衝撃が走った。
「んっ、あっ、ああっ」
快感に力が抜けて、浮かせた肩がベッドへ戻る。
カースのテントの、藁のベッドは、それに合わせてガサガサと音を立てた。
荒い息で喘ぐ少年から、カースが目を逸らした。
視線だけで辺りを見回すと、姉は隅の方で毛布にくるまって眠っていた。
テントの外は真っ暗のようで、時間まではわからないが深夜なのかもしれない。
「俺のせいだ……」
「……っ、え……?」
息と息の合間に、なんとか聞き返す。
「あいつ、嫌がるヤツを痛ぶるのが趣味だから、お前が嫌がらなきゃ、すぐ興味をなくすんじゃないかと、思ったんだ……」
カースは、焼けるような後悔に焦げついた顔で、リンデルの目を見ないまま、ポツリポツリと呟いた。
「だが、それは間違いだった……」
「カース……」
少年は、この男が、自分のために悔やんでいるのだと気付いた。
「俺のせいで、お前は余計に酷い目に……」
「大丈夫! 僕は大丈夫だよっ」
慌てて、リンデルはカースの言葉を遮る。
「……リンデル……」
じわり、と躊躇いながら、少年の顔を見て、男が名を呼んだ。
それだけで、少年は胸があたたかくなった。
(……どうしてかな)
森と空色の目が、悲しそうに、いたわるように、じっと少年を見つめている。
少年は、その目の色がとても綺麗だと、もう一度思った。
「もう少し、怪我が治ったら、術を外すからな」
「うん」
「それまでお前はゆっくり休んでろ」
「うん」
二人は、会話が途切れても、そのまま見つめ合っていた。
カースは、少年のあたたかな金色の目と髪が、まるで麦穂のようだと思った。
生まれ育った国には、麦畑が一面に広がっていた。
金色に揺れ、どこまでも続く麦畑の脇を、鳥に跨った父の膝に乗せられ走った。
もうずっと昔の事なのに、風や鳥の匂いまで鮮明に思い出してしまった。
もう永遠に、あの場所へは戻れない。
全ては壊れてしまった。
「カース?」
リンデルの声に、ハッとする。
男を心配そうに覗く、あたたかい金色の瞳。
その温もりに触れたくて、男は思わず手を伸ばした。
少年が、びくりと身を竦める。
その僅かな動きに、傷が痛んだのか、小さく喘いだ。
「んっ……」
「っ、すまない……怖がらせる、つもりは……」
男が、苦し気に眉を寄せて謝罪する。
カースはそのままリンデルに背を向けて、テントの隅へと移動する。
「まだ夜中だ。お前も寝ていろ……」
そう言って、男は床に落ちていた毛布に包まる。
その言葉がなぜか酷く淋しそうに聞こえて、リンデルは胸が痛んだ。
「違うの、僕、カースに触られるの、嫌じゃないよっ」
リンデルの高い声に、男が動きを止める。
まだ少年は声変わりには程遠い、高く鈴の鳴るような声をしていた。
昼間叫びすぎてか、少し掠れてはいたけれど、それがどこか色っぽかった。
「……俺は、別にお前をどうこうしようなんて思っちゃいねぇよ」
「?」
少年にきょとんと見返され、男は自分の言葉こそが的外れだったと知る。
恥ずかしさに、じわりと頬が熱くなる。
しかし、男の浅黒い肌では、ほんの少しの赤みなど気付かれないはずだった。
「カース? こっちに、来てくれる?」
まだ体を起こすこともできない少年に言われ、男は黙って従った。
ベッド脇まで来た男に、リンデルは手を伸ばした。
「ぅ、ん……」
痛みに、いや、快感に耐えながら伸ばされた手に、男が戸惑いながらも触れる。
きゅっと、小さな指が男の手を握る。
何かがこみ上げてきそうで、男は息を詰めた。
「カースも、触っていいよ」
「いや、俺は……」
目を逸らした男が、苦しんでいるように思えて、リンデルは悲しくなる。
「……おねがい、僕に触って……」
縋るような言葉に、カースは驚いたようにリンデルを見た。
潤んだ瞳も、ほのかに染まった頬も、術のせいだろう。
それでも、こいつがこんな事を言うのはどうしてなのかが分からない。
「どう、して……」
思ったより掠れた声で、カースは尋ねた。
「カースに、触ってほしいから……」
と少年は、真っ直ぐに男を見つめ返し、金色の瞳を滲ませて言った。
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