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叶 ~side~
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真羅の家に戻って来た瞬間、安堵したのか眠くなってきた…
アイツが退院すると同時にくらいに、また二人で生活する。
‐〔戻って来てよ、ちゃんと向き合わせてよ。〕‐
お前は…簡単に言えてしまうんだな…
あんな顔して…
逃げないで…
俺も逃げずに…向き合う……から………
『おはよう。』
[………。]
〔あ!叶先生おはよー!〕
[何で居る?!]
『頭切ったけど、幸い少しだけだったからもう退院したんだよ。知らなかったのか?』
朝起きて、リビングに行くと三人が呑気に朝飯を食べていた。
[いや……]
〔さ、ご飯食べよ食べよ!〕
[お、おぉ…]
手を引かれるがまま、龍の隣へ座る。
目の前の倉沢と目が合って、微笑まれた。
まだ眠気が強く、理解が出来ていない…
少ししか…って…それでもまだ入院の筈じゃ…
混乱しながら、パンを口に含む。
〔美味しい?〕
[うん…]
〔じゃあこれも食べて!〕
[待て待て待て、まだパン食ってるだろ。]
〔早く飲み込んでよ。〕
[急かすな!朝飯くらいゆっくり食わせろ…]
〔えー…〕
何でこんなに急かされなきゃならんのだ…
若干うんざりしつつ居ると、倉沢が微笑んだ。
[何だよ…]
「いえ…ふふっ……今日朝ご飯、日下君が手伝ってくれたんです。」
〔あ!言うなよ勇間!〕
[………。]
『因みに、お前のは全部日下君作。』
[………。]
〔ちょっと真羅先生まで!内緒って言ったじゃん!〕
茶化しに怒る日下を横目に、俺は黙って飯を口に運ぶ。
それを見た倉沢が、嬉しそうに微笑んだ。
「どうですか?」
[あぁ…美味しいよ…]
〔良かったぁ!〕
[………。]
記憶が戻ったら…この事は忘れるんだろうか…
それなら…もう少し素直に生きてみても良いかも知れない。
忘れられた方が、都合の良いこともあるし…
寧ろ、俺が忘れたかった…
こんな辛くなるのなら…最初から選ぶんじゃ…
『叶?』
[…なんだ。]
『いや、ぼーっとしてたから…』
[寝起きだからな。]
いや、選んだのは自分の意志だ。
向き合う事も決めたんだ…
それなら…もっとちゃんとしないとな。
この笑顔もいつまで見られるか、分からないし…
〔叶先生!〕
[あ?]
〔早く家に帰ろ!〕
[……そう、だな。]
〔嫌?〕
[そういう訳じゃ…無ぇけど…]
けど、正直この状態の龍を連れて…あの家には戻りたくない。
今の龍にはあの頃の記憶が無い、見ても苦しいだけだ…
お互いに…
〔大丈夫、俺を誰だと思ってるのさ。〕
[……アホな生徒。]
〔嘘でしょ!?いつも叶先生の教科は上位なのに!〕
[だからだろ。]
〔ひっど〜い!〕
「………。」
『どうした?勇間。』
「あ、いえ……何か、変わらない所もあって良かったなぁって…すみません、不謹慎ですよね。」
変わらない所があるからこそ…今の俺にはそれが一番苦しい…
お前には…幸せになってもらいたいのになぁ…
隣で倉沢と笑っている龍が、愛おしい。
〔ん?俺の顔になんか付いてる?〕
[いや…アホ面だなと。]
〔いや朝からヒド過ぎない!?〕
[………。]
今は…向き合う事に専念して、いつか…離れよう。
記憶を無くしたのなら好都合な部分もある筈だ…
まぁ、聞き分け良く離れてもらえるとも思えんがな。
[世話になった。]
『おう。』
[………。]
『んな顔しなくても、いつでも話聞いてやるから…我慢すんなよ。』
[サンキュ…]
こんなに弱り切った姿を見せて…俺らしくねぇな…
でもまぁ、今は…こいつとの道をどうするか…考えねぇと。
〔じゃあ…行こっか、叶先生。〕
[……あぁ。]
チクリと胸が痛む…
もうあの呼び方はされない。
まぁ、元々嫌だったし…好都合好都合。
〔…どうしたの?〕
[は?]
〔悲しそうな顔…俺また何かした?〕
俺の両頬を掴み、真っ直ぐ見つめてくる。
泣きそうな顔してんのはお前の方だろ…
[大丈夫だっての!離せ!]
〔か、叶先生〜…〕
俺達のやり取りに、何だか呆れたような顔をしている二人を他所に、俺は逃げるようにその場から立ち去った。
後から慌てて龍も追い掛けて来る。
今から…あの家に戻って辛いのは、俺じゃなくて龍。
取り敢えず、色々仕舞っておけば良いか…
〔……叶先生。〕
[あ?]
〔俺……その…上手く言えないんだけどさ、元々そういう関係ってのもあるかもなんだけど…〕
[……だからなんだよ…。]
〔俺、叶先生が好きだよ。〕
[…っ…!]
〔だからこそ、ちゃんと向き合いたいんだ。〕
気が付けば俺の足は止まっていて、一歩先を歩いていた龍が振り向いた。
子供なのに…妙に大人っぽく見える。
〔もー……泣かないでよ…〕
[泣いて、ねぇ…っ…]
〔ね、叶先生。〕
目元を擦る俺の両手を掴み、強く握りしめる。
暖かくて…優しい温もり…
風に揺れる龍の前髪…その隙間から俺の大好きな瞳が、真っ直ぐ見つめる…
胸が締め付けられる…
嗚呼…こんなにも愛おしい。
こんなにも…お前が好きだ…
〔これから何があっても、俺は叶先生の隣に居るから。〕
[……っ…!]
-〔かなちゃん、俺は何があっても絶対に離れないから。〕-
思わず、笑みが溢れた。
いつしかお前が言った言葉を、また聞く事になるとは思ってなかった…
少し違うけれど、それでも構わない。
お前が言うからこそ、意味があるんだ。
〔だからお願い、泣かないで…笑って…?〕
困った様に微笑む龍が…何だか眩しくて…
だからこの頬に伝った雫は、そのせいなんだ。
[うるせぇ…クソガキ。]
〔えー!〕
[おら、早く家帰るぞ。]
〔…うん!〕
暖かくて…
時にそれが怖くなって…
それでも俺は…隣りに居たい。
この繋いだ手を、繋がれた手を…何時までも離したくは無い。
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