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日下 ~side~
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叶先生は弱い人だった。
今の自分の記憶では、強い人ってイメージだったから…
でも違った。
自分が苦しむ方向へと考えてしまう、繊細で…見栄っ張り。
ちょっと勇間みたいだな、なんて思った。
「日下君、大丈夫?」
〔ん、ヘーキ。〕
「無理しないでね?」
心底心配そうに、俺の様子を窺う…
嬉しい反面、今はそっとして置いて欲しいとも思っている。
話題を変えるべく、前のめりになる。
〔それより勇間、昨日のさ〕
《ねー、聞いた?夏海の彼氏、約束すっぽかして男と二丁目歩いてたんだって!ヤバくなーい??》
{え、マジ!?}
話そうとした途端、前の席の方で女子達が声高らかに話し始めた。
話の腰を折られ、ガックリと項垂れる。
〈つか、ゲイなん?だとしたらキモくね??〉
ドキリと胸が跳ねた…
いや、俺は叶先生だから好きで…別に男なら誰でも良いって訳でも、自分がそう言う性的嗜好な訳でも…
「日下君?」
ふ、と前を向くと…また心配そうな表情をした勇間が居た…
俺は何を一人で言い訳してるんだろう…
誰に言い訳を…
〈いや、別に夏海の彼氏をディスってる訳じゃないんだけどさー、隠して普通にノーマルのフリしてたってのがキモいんだよね。〉
《分かる、隠してまで普通に見られたかったんかな?》
{さあ?…まーでもさ、生き辛くはあるんじゃないの。世間の目とかさ。}
世間の目…
なる程、だから叶先生はいつも後ろめたそうにしてるのか。
自分が巻き込んだ…とでも言いたげな、そんな雰囲気…
〔なぁ、勇間…〕
「ん?」
〔…先生と一緒に居れて幸せか?〕
「そりゃ…もちろん、どうしたの急に。」
即答…か。
俺はどうなんだろう…
叶先生と出会う前は、それなりに遊んでたりしてたんだけど…
何がきっかけだったのかは分からない、でも叶先生しか目に映らなくなった。
俺の携帯にあるファイルも、連絡先も…全部叶先生しか写ってないし、返信もしていなかった。
それ程俺は叶先生の事が大切なのか…
でも、今の俺はその大切な人への気持ちが何なのか分からない…
「日下君…?」
〔あ、あぁ…ごめん、何でもないよ。〕
「そう?…あんまり考え過ぎないでね、何かあったらすぐ教えて。」
〔うん。〕
気持ちを確かめるためにも、他に目を向けてみようかな…
嗚呼、でも悲しませたらどうしよう。
傷付けてしまったらどうしよう。
でも…確かめたい…
〔勇間…〕
「…?」
〔ちょっと俺、色々考えたいから暫く一人で行動するよ。〕
「え…」
〔……ごめん。〕
席を立ち、教室から出る。
その後ろで、勇間が椅子を倒しながら立ち上がった音が聞こえたけれど、あえて振り向かず携帯を取り出した。
適当に連絡先を表示し、コンタクトを取る。
数秒後には落ち合う約束を交わせた…
〔………。〕
〘すっごい久し振りじゃ〜ん、恋しくなったとか?〙
〔さあ?どうだろうね…〕
〘だってまた遊んでくれるようになったし、女子の間でも結構疑問視されてるよ〜?〙
長い髪の毛をアイロンで巻いて、化粧をした女の子…
校則違反もここまで来るといっそ清々しいな…なんて頭の済で思う。
案外普通だ…もう何日もこんな事を続けている。
もっと拒絶出来るかと思ってた………いや、拒絶はしていたのかもしれない。
行為の度に頭が割れるように痛む…
微かにうかぶ叶先生の顔…
〘ん、もっとキスしよ…?〙
〔…うん。〕
触れる唇は、少しベタついてる…
それ以外は別に不快じゃなかった。
でもやっぱり、頭の痛みが強くなる…
眉間にシワを寄せながら、女の子の頭を掴んで深くキスをした。
手に伝わる、柔らかい髪の毛…
脳裏に浮かぶ、柔らかくて芯のある少し硬い髪の毛…
五月蝿い…今は目の前の子に集中させてくれ。
俺は…誰でも良いのか、それとも…叶先生じゃなきゃ駄目なのか…
確かめたい。
心の中で謝罪をしながら、目の前の行為を続けた…
〘はー、久し振り過ぎてテンション上がっちゃった。〙
衣服を着始める女の子を横目に、自分の身支度を整えその場に寝転んだ。
倦怠感と罪悪感がまた一気に押し寄せてくる…
確かに気持ちは良い…けれど、それ以上に辛かった。
何が辛いのかは自分でも分からない…
ただ、叶先生の泣く姿が毎度頭に浮かんで離れない。
知られては不味い…そう思うのと同時に、焦りが湧く。
思い出さなきゃ…
〔何を…思い出せっての…〕
〘どうしたの?〙
〔んー?何でもない。〕
苦しい。
辛い。
戻りたくない…
快楽に溺れてる時だけは、痛みも誤魔化せるから。
〔はぁ…〕
ロック画面には叶先生の写真…
その頬を優しく指先で撫でる。
途端に涙が溢れた……
ごめん。
俺は何を考えるつもりだったんだろう…ごめん、ごめんね。
頬に伝っていく涙を拭おうと、腕を上げた時勢い良く教室の扉が開いた。
驚いて身を起こすと、そこには真羅先生が立っていた…
〘キャッ!!〙
〔真羅先生…〕
『お前ら〜…そう言うのは家でやれよな〜…』
溜息を吐きながら、真羅先生は中に入って来た。
時が止まったかのように、その瞳から逃れられない。
心臓の音が全身に響く。
煩くて、俺は何も言えず…ただ口をパクパクと動かす事しか出来なかった。
叶先生に見つかった訳じゃない、でももしかしたら真羅先生は言うかもしれない。
焦りと同様が迫ってくる…
『ちょっと悪いけど、日下君に用があるんだ…出てってくれるか?』
〘は、はい…〙
女の子は顔を少し赤らめながら、出て行き…
真羅先生は後ろ手で鍵を閉めた。
重苦しい雰囲気の中、俺の隣に腰を下ろす…
『………お前は何を考えてる?』
〔………。〕
静かに…諭すように呟いた真羅先生…
けれど、俺には怒っている様にも見えた。
『俺がとやかく言う事じゃないのは分かってる、けどな俺の友人を傷付ける奴はちょっと見過ごせ無い。』
〔ごめ〕
『謝罪じゃなくて、何でこうなってるのか教えて欲しい。』
目が合わせられなくて、俺はただ床を見つめている…
どうしてこうなったのか…
その理由は単純で、言ったら余計に怒られてしまうかも…
『答えられない?』
真羅先生がこちらを見ている…
視界に映る瞳は、静かに怒りを孕んでいた。
〔お、れは……確かめ、たくて…〕
『確かめたい?』
〔うん…〕
『その為に…女の子と…?』
〔…っ…〕
『見つかったのが俺で良かったな。』
〔え…〕
『叶だったらきっと、怒鳴って…そんで隠れて泣いてたろうよ……お前はそれに耐えられないだろ?』
〔うん……ごめん、ごめんなさい。〕
『謝る相手は、俺じゃない。』
そうだ…叶先生にちゃんと言って、謝らなきゃ…
でも、きっと泣かせてしまう。
俺はそれを確かめたかった訳じゃ無いのに…
何がしたいんだろう…
『焦らなくても良いじゃねぇか、正直俺は記憶なんてあってもなくても変わらないと思うぞ。自分達がその時幸せなら、それで良い…違うか?』
〔………。〕
『まぁ、必死になるのも当然だよな…分からない事は怖いよな…でも、それが相手を傷付けて良い理由にはならない。』
〔うん…〕
『なぁ、日下君…』
〔………。〕
『お前は叶だから選んだんだろ?』
そう言って、顔を近付けて来た真羅先生。
整った顔が至近距離にあるけれど、何も思わない…
それよりも浮かんでくるのは…叶先生の顔だった。
〔…今朝、クラスの女子達が話してるの聞いて…ノーマルのフリしてたってのが気持ち悪いって、世間の目とかあって生き辛くはあるんじゃないの…って……そしたら、今の俺はどっちなんだろうって悩んで……記憶のせいもあるから叶先生なのかなって…〕
『……で、結果は?』
〔俺には…叶先生しかいなかった。何してても、顔が浮かんで…何に触れても、叶先生しか……っ…〕
『そうだろうな…なんせ、あの叶が惚れるくらいだし。』
真剣な顔でそう言うもんだから、思わず笑ってしまった。
ゆっくりと身を離し、軽く俺の肩を叩いた…
『でもまぁ、あんまり遊び過ぎんなよ?』
〔うん、もうしない……多分。〕
『多分って…ははっ!素直な奴だな、ほんと。』
〔でも今回の事はちゃんと話すよ…隠してるのとか絶対無理だし、その方が叶先生傷付くだろうし。〕
『どうだろうなー…あいつの事だ、付き合ってねぇから別に良い。とか、強がるんだろうな…』
〔それ本当に言われたら困っちゃうな…〕
『………。』
また沈黙が流れる…
真羅先生が気付いたって事は、きっと叶先生も勘付いては居るんだろうな。
2日目辺りから、俺と顔を合わせる度に勇間も叶先生も気不味い顔をしていた…
それでも何も言わなかったのは、俺が不機嫌そうだったから…なのかも…
『叶…迷ってたぞ。』
〔え…?〕
『気付いてるんだ、お前のやってる事……一昨日くらいに相談された。んで、付き合ってねぇから良いけど…って声震えさせながら言ったんだ。』
〔…っ…〕
『女の匂いって、案外分かりやすくてな…ここの生徒達は大半香水つけてたりするだろ?俺もそれで勇間を傷付けた事あるし…気を付けてても、やっぱり気付くんだ。』
〔………。〕
『俺は何もしてやれない、けど辛いのは龍の方だ…だから付き合ってもない俺は何も言ってやれないし、止める事も出来やしない。どうしたら良いのか分かんねぇ……』
叶先生の言葉を、代わりに真羅先生が吐いた。
その時の叶先生は一体どんな気持ちだっただろう…
自分が好いている相手が、色んな女の子と遊んで…何て言葉を掛ければいいのか迷って…一人でまた傷付いて…
『日下君は、この先どうなりたい?』
〔………。〕
『どんな未来を描きたい?』
〔未来…〕
『前の自分は抜きにして、想像してみろ。』
言われた通り、自分の未来を考えた…
自分は笑っていて、その背顔の先には…
〔……っ…かな、と先生…〕
眉が下がって、可愛い笑顔を浮かべる叶先生が…俺の隣で笑っていた。
当たり前のように浮かんだ姿に…自然と涙が溢れる。
拭っても拭っても、止まらない…
嗚呼…記憶が無くても、病室で目が覚めたあの一瞬…
目の前に写る心配そうな顔をした貴方を見て俺は…
俺は…っ…
また恋に落ちていたんだ…
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