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日下 ~side~
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口の中が鉄臭い…
それでも足は止まらない。
涙でぼやける視界を、何度も何度も擦った。
会いたい…
すごく会いたい…
〔はぁ…っ…はぁっ…!〕
駆け抜けて行く間、頭の中で真羅先生が放った言葉を思い出す。
-『苦しいのはお前もだけど、愛する人に忘れられた相手も苦しいと思うぞ。お前がはしゃいでる姿を見て、アイツは悲しそうに辛そうに笑って…苦しい…そう呟いてたよ。自分の意志じゃ無くて、無意識に言ってたんだ…お前、相当愛されてんぞ。』-
俺も好きだ。
大好きだ。
叶先生の事が、かなちゃんの事が大好きだ。
記憶なんてもう如何でも良い。
貴方だから、俺はもう一度恋をしたんだ。
-『口下手で見栄っ張りで…実は弱くて、人一倍…愛に飢えてる。それを気付かせてやったのはお前だ、だから自信持て。』-
うん、もう不安になんかならない。
かなちゃんが要らないって言っても、溢れるくらいの愛情を注いで…
それでまた、二人で笑いながらその愛に埋もれたい。
ね、かなちゃん…
俺は…
〔叶先生!!〕
[うぉっ……っつ…何だよ!いきなり突っ込んで来んな!このクソガ……キ…]
見つけた瞬間、思い切り抱きついた。
絶対に離したくない、早く言わなきゃ…そう思って顔を上げると、叶先生は目を見開いて心配そうな表情をした。
俺の両頬を強く掴む。
[どうした?どこか痛むか?大丈夫か?]
少し目を潤ませてるこの人に…また俺は胸が苦しくなった。
違うんだ…違うんだよ…
首を横に振って、頬をつかむ両手を優しく包んだ。
[龍…?]
〔俺ね…叶先生に言いたい事あるんだ。〕
[うん、けどその前に]
〔駄目、今聞いて!〕
[………分かった。]
離れようとする叶先生を、押さえ込んで腕を引く。
より一層密着して、そこで初めて叶先生の鼓動が速いのを知った。
緊張している…
俺に何を言われるのか分からないから…
嗚呼…愛おしい…
もう大丈夫だよ、俺は叶先生に伝えたくて来たから。
早まる気持ちを押さえて、更に強く抱きしめた。
[龍…ここ学校だから…その、あんまりくっつくな…]
〔うん……でももうちょっとこのままが良い…〕
[………。]
遠くで下校のチャイムが鳴っている…
嗚呼…足りない…
叶先生がもっと欲しい、独り占めしたい。
〔…かなちゃん、ちょっと移動しよっか。〕
[え……お前、今、なん…ぅおっ!急に引っ張るなよ…]
〔早く行こ、二人きりになりたい。〕
[〜〜〜っ……何があったのかしらねぇけど、急かすな。]
〔無理、俺ずっとかなちゃんが好きなんだよ?病室で目が覚めてからずっと、ずっと!それにやっと気付けたんだ…離さない。もう忘れたくない。〕
叶先生の細い腕が、俺の手の中で微かに動いた。
次第に俺よりも体温が上がって、後ろを向けば…真っ赤に顔を染めた可愛い人が居た。
もうどこでも良い、この人と二人きりになれるならどこでも。
適当に空いてる教室に入り、鍵を締めてまた強く抱き締めた。
[た、龍…苦しいっての…どうしたんだよお前…]
〔うん…〕
[体調でも悪いのか?]
〔……かなちゃん、俺言わなきゃいけない事があるんだ。もしかしたら…ううん、もしかしなくても…かなちゃんを傷付ける事。〕
[………。]
〔俺ね、逃げたくて……逃げれるなら手当り次第誰でも良くて、色んな女の子と遊んでた。〕
[…知ってる。]
〔うん…本当にごめんね…傷付けてごめん。〕
[まぁ別に、俺らは付き合ってねぇから…]
やっぱり言われちゃった。
分かってても、それを言わせてしまった。
叶先生、語尾が震えてるよ…
ごめんね…ごめん。
〔言い訳にしか聞こえないと思うけど、聞いて欲しい。…どんな事してても結局頭に浮かんだのは、かなちゃんだけだった。髪の毛の感触も、顔も…全部…〕
[………。]
〔真羅先生に…自分の未来を想像してみろって言われて、思い描いたんだ。俺は楽しそうに笑ってたよ…〕
[…っ…い、いい…言うな…]
〔その先に居たのはね〕
[聞きたくないっつってんだろ!]
〔最後までちゃんと聞いて!大丈夫だから……ね?〕
目から涙を零し、耳を塞ごうとする手を優しく包み込む…
きっと叶先生は勘違いしてる。
俺の未来に自分は居ないんだと…
居ない訳が無いのに…俺にはもう叶先生しか要らない。
同じ未来を歩めないのなら、死んだって良い。
〔俺の…未来には、叶先生が居たよ。〕
[………。]
〔一緒に笑ってた。楽しそうに二人で、手を繋いでた…〕
[……っ…]
〔ちゃんと…っ…一緒に居たんだよっ…〕
伝えたくて…
溢れた涙も、この愛情も全て…叶先生の為だけに…
もう…俺って凄い好きなんじゃんこの人の事。
記憶とか無くてもこんなに好きになった…
[龍…良いのか?本当に俺で]
〔かなちゃんだから良いの。〕
[でも、お前はこの先にもっと良い人が]
〔もう黙って…〕
初めてしたキスは、しょっぱくて涙の味がした。
全然悪くない…寧ろ嬉しい。
引き寄せた頭…手に触れた髪はやっぱりどの子よりも柔らかくて…
唇もとびきり甘くて、溶けてしまいそうだ…
[た、つ…っん…]
〔かなちゃん……かなちゃん…〕
何度も何度も味わった…
もっと欲しくなった瞬間、力無く胸を叩かれ…そっと身を離した。
俺の腕の中に収まる貴方を見下ろすと、これ以上無いくらい赤くて思わず笑ってしまった。
睨まれたけど、その瞳さえもが愛しい。
〔かなちゃん…大好き。〕
[…っ……れ、も………だ。]
〔?〕
[〜〜っ!…だから!俺も好きだって言ったんだよ!!]
頭を叩かれた、でも嬉しくて顔のニヤケが止まらない。
叶先生…ううん、かなちゃん…この気持ち、死ぬまでずっと受け止めてくれる?
死んでも受け止めてくれる?
ずっと…ずっと隣で注ぎ続けるから、だから隣に居て…
笑ってて…
俺の大好きなその笑顔をずっと、見せ続けて。
[てかお前……その、呼び…方…]
お互い浸すら泣いた後も、離れないでいた。
時刻はもう夕飯時…
やっと口を開いたかと思えば、少し気不味そうに自分の呼ばれ方を気にしていた。
〔あぁ…なんか、無意識にそう呼びたくなって…〕
[…そっ、か…]
〔ごめんね、まだ思い出せてなくて…〕
[いや、大丈夫だ……でもあんまり他で呼んでると、勘違いされると思うから…その…]
〔分かった…じゃあ二人きりの時に呼ぶ!それで良い?〕
[……あぁ。]
優しく微笑んだ叶先生…
ふ、と脳裏に、夕陽に包まれる同じ表情が浮かんだ。
途端に何だか嬉しくなって、腕の中に居座る叶先生を強く抱き締めた。
[ちょっ…なんだよ…]
〔ううん、何でもない……俺のなんだなって、ちょっと思えて…嬉しくって。〕
[馬鹿じゃねぇの…………俺はもうとっくにお前のだ…]
〔え?今大事な部分聞き逃した気がする!もっかい言って!!〕
[言わねぇよ調子乗んなクソガキ!!]
〔いったぁ〜っ!!〕
[おら!帰るぞ。]
〔…は〜い!〕
手を引かれ、立ち上がった瞬間…
叶先生の唇が近づいた…
抵抗する訳がない…大人しく受け入れて、目を閉じた。
また少し赤らめた顔が、愛おしくて仕方がない。
俺達は今日、先生と生徒じゃなくて恋人同士へと変わった。
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