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エピローグ
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希が奎吾との待ち合わせ場所に着いたとき、男は花びら舞い落ちる桜の下にいた。声をかけるのも忘れて、希はしばし見とれてしまう。そのとき、奎吾が希に気がついた。希を見たその目がふっとやわらぐ。
「お疲れ」
「が、蒲生もお疲れさま!」
なぜか少しだけ照れてしまった希に、奎吾は不思議そうな視線を向ける。今夜は希が以前無礼なことをしてしまったバーに、一緒に飲みにいく約束をしていた。前の失敗をちゃんと謝りたいんだ、と告げた希に、奎吾はふっと微笑んだ。
はらはらと花びらが舞い落ちる夜の神社を、奎吾と並んで歩く。神社には屋台もいくつか出ていて、すれ違う人々の浮き立つ心が伝わってくるようだ。
「なんかきょうおかしくないか?」
「え? そんなことないよ」
慌てて否定した希に、奎吾が片方の眉を上げた。すべてを見透かすような瞳に見つめられて、希はそわそわと視線を揺らした。
「か、金井が……っ、会社の同期のやつが大阪に異動になるって聞いたから……」
ぽろっと白状してしまった希は、奎吾の表情を見てしまったと思った。
「寂しいのか?」
不機嫌そうな低い声に問いつめられて、希は「ちょ、ちょっとだけ……」と答えてしまう。それを見て、奎吾は思い切り嫌そうな顔になった。そのまま人気のない路地へと連れ込まれる。蒲生……と言い掛けた口を、キスで塞がれた。
「ふぅ……あんっ!」
男のキスは、希が自分のものだと知らしめるようにも、別の男に気をとられた希を懲らしめるようにも感じられた。
「が、蒲生待ってっ!」
希は男の胸を軽く叩いた。離れた身体を、再びきつく抱きしめられる。
「……他の男のことは考えるな」
余裕をなくした声に懇願するように囁かれて、希の身体から力が抜けた。ばかだなあと思う。愚かだが愛しい恋人の背中を、希はぽんぽんと軽く叩いた。
「あいつはそんなのとは違う。単なる同僚で、それ以上でも以下でもない。確かにこれまでずっと一緒だったからさ、多少の寂しさはあるけど、蒲生とは違うよ。俺が好きなのは蒲生だ」
希はきょろきょろと周囲を見渡した。誰も見ていないことを確かめると、男の唇にすばやくキスをした。離れようとした腕を惜しむように引っ張られて、希は笑った。そのとき、希は男の髪にさきほどの桜の花びらがついていることに気がついた。指でつまんで花びらをとった希を、奎吾が不思議そうに見る。
「いこう」
ひらひらと空いた手を伸ばし、奎吾と手をつなぐ。誰かに見られたら、少しだけ恥ずかしい思いをするかもしれないが、そんなことは構わない。
「……家に着くまでは、飲むのはほどほどにしとけよ。あまり俺以外のやつに隙をみせるな」
心配性で過保護な恋人に、希はぶっと吹き出した。
了
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