アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
第一話「推しに認知される」⑤
-
「え〜、それ恋人ですかぁ?」
さり気なさを装いながら、その目はどこか血走っていて、下手なことを言えば後々面倒なことになるのが目に見えていた。
「……ははっ」
笑って誤魔化し「お疲れ様です」と言って席を立つ。このままここにいると、他のヤツにも声をかけられそうだ。
渋々といった様子で帰っていく彼女たちを横目に見ながら、オフィスに置かれたコーヒーメーカーへ近づきボタンを押した。
コーヒー好きって顔じゃないよな……。
頭の中で考えながら、少し迷ってコーヒーとカフェラテをそれぞれカップに入れた。とりあえずスティックシュガーも数本持って、ほとんどが帰り、ひと気の少ないオフィス内を歩いていく。
「どうぞ」
そう言って書類が山積みになっているデスクに、カフェラテの入ったカップを置くと、相手はひどく驚いた顔でこちらを見上げた。
「え……あ、ありがとう……ございます」
強気な見た目の割りに、随分としおらしい小さな声だった。
カップの横にスティックシュガーを一緒に置けば、困惑しながらも立川さんはそれを手に取る。
カップの中に砂糖が投入されていく様子を見ながら、誰もいない隣のデスクに寄りかかり、コーヒーに口をつけた。
「仕事、まだ終わりそうもないんです?」
言いながら立川さんのデスクを見ると、パソコン周りに貼られた数枚のメモが目に入る。
「ぁ……いや、終わってた……はずなんですけど」
言いづらそうに口ごもる様子を見て、「ああ」と察した。
「帰る間際に新しいのを押し付けられました?」
困っている姿が何だかおかしくて、クスクスと笑いながら返す。
「は、はい……」
立川さんは俺の方を見ないまま、小さくうつむいた。焦げ茶色の髪の隙間から、真っ赤になった耳がのぞいている。
「あ、あのッ……さっきは本当にすみませんでした。会議、大丈夫でしたか……?」
意を決したようにこちらを振り返った立川さんは、眉尻を下げとても申し訳なさそうな顔で言葉を紡いだ。
「大丈夫でしたよ。まぁ、アルファですし、そこら辺は優秀なので」
へらっと笑って、心にもないことを言う。大体こう言っておけば、相手は納得するものだ。
「………?」
しかし、予想に反して目の前の彼は、少し困惑した様子で俺を見上げてきた。
「吉備さんがアルファであることと、優秀なことって、また違う話ですよね……?」
「え」
思ってもみなかった言葉に、驚いて目を見開く。
「え……? だって吉備さんが仕事ができて優秀なのって、たくさん努力してきたからじゃないんですか……?」
不思議そうにそう言った立川さんに、思わずフリーズしてしまう。
「え、え? 俺なんか変なこと言ってますか? ……だって他のアルファの人たちよりも、明らかに優秀ですし……。それって、吉備さんがアルファだからとかじゃなくて、頑張ってるからこそ出来ることだと思うんですけど……」
焦った様子で早口にまくし立てた立川さんに、思わず呆気に取られる。しかしすぐに、一拍あけて吹き出した。
「ふはッ……はっはっはっ」
おかしくて、コーヒーをこぼしそうになりながらゲラゲラと大笑いする。
まさか、そんなことを言われる日が来るなんて。
笑いすぎて涙まで出てきた。
少ししてから「あ〜おかしッ」と、目元を拭って顔を上げる。
こんなに笑ったのは久しぶりだ。
「ッ〜〜……」
耳どころか首元まで真っ赤にした立川さんが、すごい形相でこちらを見ていた。
「あははっ、ごめんッ……意外だったから」
息を整え、乱れた髪を手でかき上げながら、立川さんを見つめ返す。
どんどん赤くなっていく顔を面白く思いつつ、手に持つコーヒーをゴクッと一口飲み込んだ。
「立川さんって、アルファは全員嫌いなのかと思ってた」
努めて落ち着いた口調で言いながら、隣の席を勝手に借りて腰を下ろす。
「俺に冷たいし」
「え?」
俺の言葉に立川さんは驚いたように目を見開いた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
5 / 30