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第一話「推しに認知される」⑥
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「俺、吉備さんに冷たかったですか……?」
ぱちぱちと瞬きを繰り返す子どものような仕草に、また笑いそうになる。
「話しかけようとすると、凄い早さで逃げていくし。他の社員とは話すのに、俺とは目も合わせてくれないし」
テキトーに思いつくことを言ってみる。
「あぁ、あと時々、この席から俺のこと睨んでたから」
笑いながら冗談めかして言えば、立川さんはあからさまに動揺したようだった。
「す、すみませんッ……そんな、つもりじゃ……なかったんですけど……」
あわあわと焦ったように唇を震わせる様子を見て、不意に変な気持ちになる。
「ははっ……可愛いなぁ」
あ、やべ。これってセクハラになるか……?
思わず口をついて出た言葉に、内心少し焦る。すると突然、立川さんが勢いよく立ち上がった。
「え?」
驚いて面食らっていると、止める間もなくそのままどこかへ走り去っていく。
「えぇ……?」
一人オフィスに残され、呆然と立川さんが出ていった扉を見つめた。
なんだ急に……。
視線を手元のカップに戻しながら、ふとデスクに置かれたままの立川さんの携帯が目に入った。
「………?」
何となく気になって、それを手に取ってみる。電源ボタンを押すとロック画面が開いて、そこに変な写真が設定されていた。
「ふはッ……なんだこれ」
たぶん俺の後ろ姿だろう隠し撮りのような写真を見て、思わず吹き出す。
「……ふ〜ん?」
変な勘が働いて、パスワード画面にポチポチと英数字を打ち込んでいく。
kibi0415
自分の名前や誕生日で数パターン試してみると、呆気なくロックは解けた。
「へぇ〜?」
誰もいないのをいい事にニヤニヤと笑いながら、勝手に携帯を操作する。
すると、写真フォルダの中に、見覚えのある写真を見つけた。
「あれ……」
その写真をキョトンとして見ていると、急に後ろから携帯を奪い取られた。
「な、何してるんですかッ!?」
ぜえぜえと肩を上下させながら、顔を真っ赤にした立川さんが俺を睨む。
「もしかして、立川さん俺のSNSフォローしてる?」
「ッ……!!」
バッと後ろに飛び退いた立川さんが、泣きそうな顔になって口元を押さえる。
「その写真、前に俺が投稿したやつでしょ」
立川さんは眉間にキツくシワを寄せ、俺のことをじっと見つめてきた。
「…………」
「…………」
お互いに何も言わない時間が続いて、俺たちしかいないオフィスが静けさに包まれる。
「ひ、引きました……か……?」
やがて恐る恐るといった様子で、掠れるような声で立川さんが呟いた。
「んー、別に引きはしないけど。理由が気になるかな」
イスの背もたれに体重をかけながら、わざと視線をフラフラとさまよわせる。
「…………」
また黙ってしまった立川さんに、イスをくるっと回して背を向けた。
「とりあえず、これ終わらせましょうか。手伝います」
言いながらデスクに積まれた書類を手に取る。単純な打ち込み作業だったが、意外と量があった。
「え、いや、大丈夫です……! 自分でやりますからッ」
焦ったように近づいてきた立川さんが、俺の持つ書類に手を伸ばす。
「ッ……!」
その手を反対の手で掴んで、自分の方へ引き寄せた。
バランスを崩して俺の膝の上に倒れ込む立川さんのお腹に腕をまわし、逃げられないようにギュッと後ろから抱きしめる。
「ちょッ……吉備さんッ!!」
ジタバタと暴れる立川さんの肩に顔をうずめ、ゆっくりと首筋を鼻で辿っていく。
なんだこの人。めちゃめちゃいい匂いするな……。
「ひッ……」
スンスンと匂いを嗅ぎながら、うなじにキスをすると、立川さんは怯えたように小さく悲鳴を上げた。身体を強ばらせ、腕の中で立川さんが大人しくなる。
「……怖い?」
立川さんの心臓がバクバクしているのが伝わってくる。試すようにそう言えば、少し躊躇ったあと立川さんは小さく首を横に振った。
「俺のこと、好きなの?」
真っ赤に染まった耳元で囁くように言うと、立川さんはあからさまに肩をビクつかせる。
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