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第一話「推しに認知される」⑦
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「……もしかして、俺目当てでここに就職してきたとか?」
チュッと首筋に口付けながら、後ろから反応をうかがう。お腹にまわしている俺の腕に、立川さんの手が控えめに触れた。
「…………?」
何も言わない立川さんにもどかしさを感じていると、不意に腕に何かが落ちてきた。
それはどんどん増えて、ボタボタと俺の腕を濡らしていく。
「立川さん?」
驚いて後ろから顔を覗き込むと、眉間にシワを寄せ、唇を噛み締めた立川さんがボロボロと涙を流していた。
「え゛」
すぐにまわしていた腕を外し、目の前のイスに座らせる。
「ッ…ぅ、……ッ…」
必死に嗚咽を堪えているらしい立川さんは、ギュッと目を瞑ってビクビクと身体を震わせていた。
「すみません。怖かったですか……?」
立川さんの前にしゃがみ、持っていたハンカチで落ちてくる涙を拭いとる。立川さんは、また小さく首を横に振った。その顔に触れ、なだめるように頬をさする。
「ッ……」
薄らと開いたまぶたから、涙で濡れた焦げ茶色の瞳がのぞいた。その綺麗さに思わず息を呑むと、立川さんは震えた声でポツリと言葉を紡いだ。
「ごめん…、…さい……」
弱々しく掠れた声が、辛うじて聞き取れる。
「……好き、で……す」
さっきよりも泣き出してしまう立川さんに呆気に取られながら、涙で濡れた頬を両手で包んだ。
「……泣きやまないとキスするよ」
冗談めかして言うつもりが、思いのほか真剣な声が出た。面白いくらいに立川さんの目が見開かれる。
ぶわぁっと赤くなっていく様子に、何だか胸がドキッとした。
この人、こんなに可愛かったか……?
驚いて固まる立川さんに、試しに顔を近づけてみる。縫い付けられたように、俺から視線を逸らさない立川さんの唇に、本当にキスをした。
「んッ…!?」
一拍遅れて、立川さんが俺の胸を手で押す。包んだ頬を離さないまま、震える唇に何度も角度を変えながら口付けた。
「ッ…ふ、ぁ……ン……」
徐々に大人しくなっていく立川さんの手が、俺のシャツをギュッと掴む。意外と唇はやわらかいし、漏れ出る声も可愛らしい。
いつの間にか夢中になってキスをしていた。胸元の手がガクッと下に落ちたのに気がついて、ようやく我に返る。
「はぁッ…ぁ……ッ……」
顔を離すと、トロンとした瞳がこちらを見ていた。ぐったりとイスにもたれかかった胸が、忙しなく上下している。
どうやら涙は止まったらしい。
「ふっ……かわいい」
「…ッ、ぅ……」
立川さんのだらしなく緩んだままの唇を親指でなぞると、くすぐったいのか小さく声が漏れた。
「……立川さん。俺、立川さんのこと好きかも」
「ッ……ぇ…?」
俺の言葉に、立川さんの目が今までで一番大きく見開かれる。
「オメガとかアルファとか関係なく、純粋に立川さんに興味あるんだけど、俺と付き合わない?」
「え……? え……?」
にっこりと笑みを浮かべると、立川さんは信じられないのか何度も「え?」を繰り返す。
掴んでいた頬から手を離して、立川さんの足の間に膝をつき体の上に覆いかぶさった。
「え?、じゃなくて」
グイッと顔を近づけて言うと、立川さんが息を呑む。
「む、むりですッ……」
「……は?」
予想と違う返事に、思わず笑みを浮かべたまま固まった。そんな俺を見て、立川さんの肩がわかりやすく跳ねる。
「いやッ…ほんとに、おれッ……そんなつもりじゃ……」
怯えたようにどんどん弱まっていく語尾に、一先ず息を吐いて自分を落ち着かせる。
「……え、どういうこと? 俺のこと好きなのに、付き合うのは嫌ってこと?」
この人、ちょっとよくわからないぞ。
出来るだけ怖がらせないように口調を和らげたつもりだったが、上手くできたかわからない。
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