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第二話「推しの押しが強い」②
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「…………飲みでお願いします」
周りに聞こえないようにボソッと返すと、吉備さんは一気に笑顔になって、嬉しそうに目を細めた。
「決まり!」
その顔があまりに可愛くて、心臓が破裂しそうになる。
「…………はぁ」
離れて行った吉備さんの背中に、深くため息を吐き出す。会社の食堂よりは、外の方がまだ目をつけられないかもしれないと思って、思わず飲みを選んでしまった。
手に持ったままのお弁当を見つめながら、頭の中がぐちゃぐちゃしてどうしたらいいかわからない。
「よし……」
誰にも聞こえない声で、小さく気合いを入れた。
絶対、お酒は飲まないようにしよう……。
────
「きびちゃんのちんこが綺麗すぎてさ〜、もう最近それ思い出して抜いてばっかッ!」
ゲラゲラと笑いながら持っていたジョッキを揺らすと、中身はもう氷だけになっていて、カラカラと音が鳴った。
何杯目になるかわからないお酒をタッチパネルで注文し顔を上げると、目の前に座る吉備さんはニコニコと笑っていた。
「酒癖悪いんだね」
見惚れるほどカッコイイ顔で言われ、思わずムッと唇を尖らせる。
「はぁ? 悪くないですぅ……悪いのはぜ〜んぶきびちゃん!」
「俺ぇ?」
テーブルに頬杖をつきながら、吉備さんが楽しそうに笑って自分の顔を指さす。
「そう! きびちゃんがカッコよすぎるせい!」
ケラケラと笑って言うと、釣られるように吉備さんも笑う。その顔を見ると嬉しくなって、余計に頬が緩んだ。
「普段俺のこと、“きびちゃん”って呼んでんの?」
からかうように言われ、うーん?と首を傾げる。
「ん〜、本人の前では絶対しないけどぉ、家では勝手に呼んでんのぉ!」
吉備さんの口調を真似して言うと、吉備さんは堪えきれない様子で肩を震わせ、楽しそうに笑った。
あはっ、うれし〜〜ッ!
推しが笑っている。それがこの上なく幸せで、どんどんお酒が進む。
何か大事なことを忘れているような気がしたけど、頭がぽあぽあしていて、そんなことは段々どうでも良くなった。
気づいたときには、知らない天井が目の前に広がっていて、頭が割れるように痛かった。
「……起きた?」
「びゃあッ!?」
呆然と見慣れない天井を見つめていると、ひょこっと横から顔がのぞいてびっくりして叫ぶ。「うるさ……」と言って、すぐ目の前で吉備さんが眉間にシワを寄せた。
「な、なななんでッ……」
頭の痛みも忘れて、ガバッと身体を起こす。吉備さんはスウェット姿で、会社のときと違って前髪を下ろしていた。初めて見るスーツ以外の格好に、そんな場合じゃないのに胸がときめいて仕方ない。
か、かわいい……。
「はぁ……やっぱり覚えてないか」
呆れたようにため息を吐く吉備さんから、ジリジリと距離をとる。なぜか一緒に寝ていたみたいで、内心焦りまくりながら後ろに下がってベッドを降りた。
「おはよう、なおちゃん。昨日は楽しそうで良かった〜」
急にニコッと笑みを浮かべた吉備さんが、含みのある言い方で言いながら俺を見る。
「え……? え……?」
訳が分からなくて何度も瞬きを繰り返していると、少しだけ記憶が戻ってきた。
「ッ……俺、もしかして……やっちゃいました……?」
仕事終わり、わざわざデスクに迎えに来た吉備さんに、居酒屋に強制連行されたことを思い出す。ものすごく緊張していて、飲まないと決めていたお酒を一杯だけ注文した。
そこから先の記憶がほとんどない。なんか、楽しくてずっと笑っていたような気がする。
顔から血の気が引いていくのを感じながら、床にペタンと座ってベッドの上をそっと覗く。寝転んだまま、頬杖をついて吉備さんはこっちを見ていた。
「あ〜……まぁ少し?」
一瞬だけ視線を空中にさまよわせた吉備さんが、そう言って何かを思い出したように笑い出す。それだけで十分察してしまった。
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