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第二話「推しの押しが強い」③
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「す、すみませんッ! ホントにすみませんッ! 俺、何も覚えてなくてッ……何か壊したりとか汚したりとかしてたら、弁償しますのでッ!!」
床に勢いよくおでこを叩きつけながら、叫ぶように謝罪を繰り返す。
うっ、最悪だッ……! 俺のばか!!
過去に飲みに行ったことのある友達には、外でお酒は飲まない方がいいと散々言われていた。いわく、『下ネタを言いまくる笑い上戸。挙句、急に寝るから面倒臭い』らしい。
もし、今回もそれをやっていたとしたら……。
不幸中の幸いか、身体の関係を持つような過ちは犯していないみたいだった。そのことだけにはホッとしたけど、たぶん間違いなくここはホテルじゃなくて、吉備さんの家だ。
ずっとストーカーしてたからわかる。部屋の中が吉備さんの匂いでいっぱいだ。柔軟剤とも香水とも違う。本能的に近づきたくなるような、なんとも言えない良い匂い。
「はは、平気だよ。俺ら付き合ってるんだし、むしろ新しい一面が知れて良かったかな」
吉備さんはおでこを真っ赤にした俺を見て、ケラケラと笑った。
「ッ……」
つ、付き合ってるって、やっぱり俺の妄想じゃなかったんだ……。
恥ずかしくて顔をベッドに押し付ける。自分の顔がひどく熱いのがわかった。
う゛〜、頭痛い……。
少し落ち着いてくると、頭を激しく動かしたせいでさっきよりも頭痛が酷くなってきた。
完全に二日酔い。今日も仕事だって言うのに、自己管理できてなさすぎだ。社会人失格。
「大丈夫? 頭痛い?」
不意に近くで声がして、恐る恐る目だけをあげてみる。いつの間にか近づいてきていた吉備さんが、俺を覗き込んでいた。
「…………少し」
本当はいつもみたいに逃げ出したかったけど、頭がガンガンと痛んで動けそうにない。吐き気はそこまでないし、寝ていれば良くなりそうな感じではあった。
「横になりなよ。どうせ会社には休むって連絡しちゃったし」
「え゛」
吉備さんの言葉にギョッとして目を見開く。慌てて部屋の中を見回すと、壁にかかった時計はとっくに出勤時間を過ぎていた。
「う、うそッ……」
ベッドに手をついて慌てて立ち上がり、キョロキョロと自分の荷物を探す。今さら気づいたけど、ズボンがなくてパンツしか履いてない。しかも上に着てるのは、たぶん吉備さんのTシャツだ。
情けなさ過ぎる格好に絶句していると、吉備さんに腕を掴まれる。
「ぅあッ……!」
グイッと引っぱられ、そのままベットの上に倒れ込む。するりと背中に腕をまわされて、気づいた時には吉備さんの胸が目の前にあった。
「ッ、ッ!?」
あまりの近さに頭の中がパニックになる。声にならない悲鳴をあげると、吉備さんがフッとおかしそうに笑った。
「よしよし、お休み」
子どもを寝かしつけるみたいにポンポンと背中を叩かれ、わけがわからなくて固まってしまう。
「いや……おれ、会社行かないとッ……」
布団をかけられ、思わず流されそうになる。ハッとして顔をあげると、ずっとこっちを見ていたらしい吉備さんと目があった。
「別に平気だよ、一日くらい休んだって」
優しい目と優しい声。
自分でも驚くほど、心臓が早くなる。
「で、でも……おれ、仕事……あるし」
慌てて視線を吉備さんの胸元に戻し、たどたどしく言葉を紡いだ。
そりゃ、アルファのことを責める人なんていないんだろうけど、オメガである俺は、一日でも休んだりしたら普段の三倍は睨まれると思う。
想像して無意識に眉間にシワが寄る。
不安になって気づかないうちに、吉備さんのスウェットのすそを掴んでいた。
「俺が明日フォローするから、とりあえず寝なよ」
またポンポンと背中を叩かれ、その手がトントンと一定のリズムを刻みだす。
「でも……」
急に強烈な睡魔が襲った。なんとか抵抗しようと口を開いたけど、堪らなく好きな匂いに包まれていて、身体から勝手に力が抜けてきた。
吉備さんから伝わってくる体温の安心感がすごくて、気づけば意識を落としてしまっていた。
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