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第三話「推しが好き過ぎてつらい」⑩
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「ねぇ! 俺の話聞いてた?」
「……聞いてた」
ずっと携帯をいじっていたきびちゃんに不満たっぷりに言えば、眉間にシワを寄せながら、そう返事をしてきた。
「絶対うそ。じゃあ、何の話してたか言ってよ」
テーブルに頬杖をつき、きびちゃんをじっと睨む。
「……なに?」
少しだけ考える素振りをしたあと、きびちゃんは諦めたように携帯を置いて俺の方を見た。
やっぱり聞いてないじゃん。
「だから……。最近、体調悪いから一緒に病院ついてきてほしいって言ったの……」
「なんで?」
ボソボソと反応を伺い見ながら言うと、案の定きびちゃんは面倒くさそうに眉をひそめた。
付き合い始めた頃はもっと優しかったのに。
思わずムッとして拳を握りしめる。こみ上げる怒りに任せて、息を吸い込んだ。
「ッ〜〜………ヒート中に中出しするからだろッ!!」
殴ったテーブルがバンッと大きな音を立てる。口に出すのも勇気が要る。泣きそうになって、すぐに唇を噛んだ。
きびちゃんはキョトンと首を傾げると、一拍置いて大きく目を見開いた。
「は? うそ……」
信じられないような顔でこっちを見てくるきびちゃんにやっぱりムカついて、勢いよくイスを引いて立ち上がる。
「もういいッ! きびちゃんのばか!」
リビングを飛び出して玄関に走れば、後ろから追いかけてきたきびちゃんにすぐに抱きとめられた。
「待って、ごめん。……本当?」
今度は真剣な声音で言われ、ドキッと心臓が跳ねる。
「……わかんないから……一緒に来てほしいんだってば」
ボソッと小さく拗ねたように言えば、胸とお腹にまわされた腕がギュッと俺を抱きしめた。
「……わかった」
身体を包む温もりにホッと息を吐き出す。俺の肩におでこを押し付けてくるきびちゃんが可愛くて、苛立っていた気持ちなんてすぐに消えてしまった。
顔を後ろに向け、「ん……」とキスをねだる。応えるようにきびちゃんが顔を上げてくれたのを見て、嬉しくなって目を閉じた。
唇にやわらかいものが優しく触れ、その感触にギュッと胸が痛くなる。
「ン…ぁ……」
意地悪もされるけど、大切にされてるってわかってる。背中から伝わってくる鼓動がいつもより早くて、釣られるようにドキドキした。
きびちゃん、俺の番。触れていいのは俺だけ。
俺だけのアルファ。
────俺だけの推し。
終
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