アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
甘い時間てどうして短いんやろな
-
目が覚めると、俺は身を縮めて眠っていたらしく、体のあちこちが痛んだ。しょうがないよな、ソファで寝るとこうなるやんか。
目の前には潤さんの顔があった。ちがう、この匂いは零や。
「……なんで一緒に寝てんねん!」
思わず叫ぶと、零がぱちりと目を開けた。
「だって、寂しかったから……。」
くぅーんという声が聞こえてきそうな、置き去りにされた犬みたいな、寂しそうに拗ねた声。なんやねん、ちょっと愛おしくなってしまうやないか。
俺は起き上がって台所へ向かった。
「なんか食べたいか?作るで。」
「待って。晃連れてくる。あいつ、他人と飯食べるの、ほとんどないから。」
俺ばっかりいい目みてもな、と零は言った。意外と思いやりがある奴なんやな、と俺は思った。
「出てこぉへん時はどうしてるの?」と訊くと、
「暗いとこにいるんだ。たまに、他の奴が見聞きしてる光景がぼんやり見えたり、音が聞こえる。」と零は言った。
「打木ちゃんさあ、晃にも優しくしてやって?」
零は小首を傾げて言う。
「俺たち、本当はちゃんと一つの人格になったほうがいいの。でも、真ん中の晃が子供過ぎて、俺たちはまとまれない。晃は多分五歳くらい。そっからは、俺たちが世間に出てたから、成長してない。このままじゃ多分、俺たちは上手く生きていけなくなる。」
「晃が成長したら、潤さんや零はいなくなってしまうんやないの?」ちょっと不安になって聞いてみた。
「どうだろうな。でも俺たち、このままじゃまずい。マジで世間に噛み合って生きていけないぜ。」
そう言って、零は眠るように目を閉じてしまった。
そうして目を開けた零の体からは、レモンではなくて、ミルクのような匂いがした。
「…」
多分、晃なんやろう。俺は、零に、晃は何を食べるのが好きなのか、とりあえず聞いとけばよかったと思た。
「…晃くん、」俺は口を開いた。
「ホットケーキでも食べるか?」
晃は何も言わず、ただ小さくこくんと頷いただけやった。
ホットケーキを焼いてやる。小麦粉を取り出して砂糖と混ぜ合わせ、水と卵とマーガリンを混ぜた。焼き上がったとこで、いいにおいする、と晃は静かな声で言った。俺は、パンケーキにバターを載せて蜂蜜をかけてやる。それを晃を座らせて、テーブルの上に置いた。すると晃は小さな声で、「いただきます」と言った。
「おいしい?」と聞くと、黙ってうなづくだけ。
俺はため息をつく。なんやろな、零の話では晃は五歳くらいの精神年齢らしいけど、晃には、子供らしい生気みたいなもんが足りひん。子供やったらもっとぬけぬけしてて、大人に信頼みたいなもんがあってもいいやろうに、一度優しくした俺にもびくびくしながら、でもホットケーキだけは食べる。食べるときに食べないといつ次があるかわからん人間の食べ方をする。
可哀想な晃を見ていると溜息ばっかりになってしまう。どうしたらええのんか。俺は潤さんが好きや。零のこともそこそこ好き。でも、子供まで出てくるとなると、もう家族やん。進みすぎなんちゃう?
「晃くん、今日、何したい?」
と、俺は聞いてみる。
「…」晃は答えない。しばらく黙っていて、
「かんがえたこと、なかった」とだけ言った。何したいか、考えたことがなかったちゅうことやろか。
「じゃあ、公園行こ。」と、俺は手を引く。
近くの公園へ行って、俺たちはボートに乗った。
晃は少し怖がったので、俺は後ろから支えるようにして、手漕ぎのボートを漕いだ。
晃は、
「みずのうえをわたれるのはすごい。」と言った。
「晃くんも漕いでみ。」と、後ろから手を添えながらボートを漕がせると、なかなか上手かった。
「呂将、ありがとう。」と、晃は言った。俺の名前を呼んでくれたのは、なんか嬉しかった。
日暮れまで、公園で遊んだ。
晃は見た目は俺より年上のおっさんなので、たまに周りの人にびっくりされるけど、俺は人目を気にせえへんことに決めた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
13 / 14