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ボクは忘れてしまっていた。
彼が、ここにいる理由を。
彼が、朧げな存在でしかないことを。
「黒子、黒子っ!」
「はい?そうしたんですか、そんなに慌てて」
いつもだったら、絶対にしないのに、今日は何をそんなに急いでいるのか二階の窓から入ってきた高尾くん。
「真ちゃんに会った!」
「そうですか。良かったですね」
「なんで、オレ、嬉しいんだろ?」
あれ?と急に考え込んでしまった。
「え?」
なんでって、友達に会えたからじゃないのかと思って、ボクも考える。彼の会う、というのは残念ながら見かけるということでしかない。会おうと思えば、彼はすぐに秀徳へでもどこへでも行けるはずなのだ。今更、という話ではないのか。
「……秀徳へは行ってないんですか?」
「うん、行ってない。誠凛にも行ったことないようにね」
「なんでって聞いてもいいですか?」
「ボールを見たくないから」
多分、触れられないから。バスケがしたくなるのが嫌なんだろう。
「そう、ですか」
「あ、なんか、ごめんね?黒子は悪くないのに」
「ボクはキミに何もしてあげられないのが悔しいです」
「そんなことないよ?!オレ、すごい、黒子に助けられてるからね?オレが今、この時間を持ててるのは黒子のおかげなんだし、さ!」
「へ?」
「ふへ?!いや、なんでもないけどね?!」
よく分からなかったけれど、彼の照れた表情から、ボクは何かしら彼の役に立てていることは嘘ではないようだ。彼との生活も一カ月は経ってしまったわけだが、やはり、近くにいればいただけの発見がある。いつだって、しっかりしているとおもっていたけれど、時々、抜けていたりする。いつだって、大胆不敵に笑っているのかと思っていたら、しょんぼり帰ってくることもある。(これはボクのことを信頼してくれてるのかなって少し自意識過剰かもしれないけれど、思ってしまう。)
おちつけ、オレ。なんか、おかしいぞ、なんてぶつぶつ言いながら、深呼吸している彼も可愛らしい。彼を見てると、頬が緩む。いつもはあまり働いてくれない顔の筋肉が頑張ってくれてると思う。
「あ、笑ったな!」
「っふふ。だって、慌ててるキミが珍しくて、つい」
「恥ずかしいな、もー」
「そういうところ、可愛いですよ」
日頃の仕返し。実際、可愛いし、いいじゃないか。
「え、ちょ、急に真顔とか、やめて。ときめいちゃう……!」
「と、ときめくってなんですか……!もう、笑わせないで下さいよ」
「ぜんっぜん、顔、笑ってないけどな!相変わらず!」
どうでもいいようなことで、なんで面白いのかさえ分からないけど、笑える。それが学生というものだ。
ひとしきり二人で笑いあった。(家にはボクしかいないので、怪しまれはしない。最悪、お笑い番組でも見てたと言えば大丈夫。)
「やっぱ、楽しいわ。黒子といると」
「そうですか?ボクもキミといるのは楽しいです」
「オレ、お前にしか見えなくて悲しかったことなんてないからな」
「今、言うことなんですか、それ。急に真面目なこと言われるとテンションがついていけません」
「大事なことは、早いうちに言っちゃった方がいいの!時間を置くと、恥ずかしくなってきちゃうでしょ?」
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