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戸惑う感情③
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うっとりと見上げていると、虫が目の前に飛んで来た。
「ぎ…ぎゃ~!」
思わず悲鳴を上げると、田中さんが驚いたように飛んで来た。
「どうしました!」
「む…虫が…!」
って叫びながら、自分が全裸なのを忘れて田中さんに抱き付いた。
すると田中さんは驚いた顔をしてから吹き出すと
「赤地さん、落ち着いて。ほら、良く見て下さい」
そう言って、洗い場の電気も消した。
すると、チカチカと緑色の光が点滅している。
「え?」
驚いて田中さんを見上げると
「この裏は川なんですよ。だから、この時期は蛍が迷い込んでくるんです」
そう言って微笑んだ。
「蛍?」
「はい。蛍です」
田中さんは頷いて、蛍の光を見つめて居た。
「この部屋は、蛍を見ながら温泉に入れるんですよ」
満天の星空と蛍の光。
確かに綺麗だけど…
「赤地さん…もしかして虫が苦手ですか?」
ふいに聞かれて、思わず苦笑いする。
「蛍は噛んだりしませんよ」
当たり前の事を言われて
「分かってますよ!」
って顔を膨らませて呟くと
「困りましたね…」
って苦笑いされてしまう。
「くしゅ!」
全裸で田中さんに抱き付いていたせいで、寒くなってくしゃみが出ると
「身体が冷えてしまいますね。お風呂に…」
と言われて、田中さんにしがみ付いて
「一人で入るのは怖いです」
って、泣きそうになりながら訴えた。
田中さんは困ったように笑うと、一度、洗い場の電気を点けて脱衣所からバスタオルを持ってくると、僕の身体に巻き付けた。
「風邪を引いたら、赤地さんのお母様に怒られますからね」
悪戯っ子のような笑顔を浮かべると、田中さんは僕の頭を撫でた。
「ちょっと待っててもらえますか?」
田中さんはそう言うと、一度、部屋へと戻って行った。
僕が露天風呂の綺麗な景色を眺めながら脱衣所の椅子に座って待っていると、田中さんが浴衣とバスタオルを持って戻って来た。
「では、赤地さん。二択です。一緒に露天風呂に入るか、一人で内風呂に入るか」
僕は外の景色を眺めながら
「露天風呂に入りたいです」
と、思わず言ってしまった。
すると田中さんは小さく笑って
「分かりました。では、少しお待ちくださいね」
そう言うと、衣服を脱ぐ音が背後から聞こえた。
その時、ハッと我に返る。
(一緒に入るって…お互い裸になるんだよね!)
今更ながらに恥ずかしくなって、思わず赤面してしまう。
すると窓の外を眺めていた僕の背後から
「すみません、先に行っていますね」
と声がして、田中さんが反対側の引き戸から洗い場へと移動した。
思わず後姿をチラ見すると、鍛えられた身体に思わず見とれてしまう。
助けてもらった時も思ったけど、均整の取れた綺麗な身体って、ああいう身体を言うんだろうな…。綺麗に引き締まって、筋肉が着いた綺麗な身体。
ふと、骨と皮だけの自分のヒョロヒョロの身体を見て溜息が出た。
同じ男なのに…どうしてこうも違うんだろう。
もし、僕の身体が田中さんみたいだったら、襲われる事なんて無いのかもしれない。
ぼんやりと考えていると洗い場の水音が止まり、電気が消された。
田中さんが湯舟に入る音がして、僕はそっとドアを開ける。
すると最初は真っ暗で見えなかったけど、暗闇に慣れて月明りに田中さんが空を見上げている横顔が見えた。その横顔はまるで、映画のワンシーンのように綺麗だった。
僕はそっとバスタオルを浴室のかごへと入れると、ゆっくりと田中さんとは反対側から湯舟へと浸かる。
お湯が揺れたのか、田中さんは視線を僕に向けると
「大丈夫ですか?」
って声を掛けて来た。
(何だっけ?)
と思っていると、目の前を緑色に光る虫がフワフワと通り過ぎていく。
(光だけなら大丈夫なんだけど…。)
そう思っていると、近くの石に蛍が止まった。
光ってると綺麗だけど、光っていない蛍は結構、無理な姿をしている。
「ぎゃ~!」
っと叫んで、田中さんに飛び付くと
「大丈夫ですよ。ほら、ここなら蛍が止まる場所が無いから安心ですよ」
そう言って、湯舟の真ん中に座らされる。
「それにしても…赤地さんも虫が苦手だったのは盲点でした」
苦笑いする田中さんに
(も?)
って疑問の視線を投げると
「翔さんも、ああ見えて虫は苦手なんですよ。だから、本当は此処に連れて来たかったんですが…断られましてね」
田中さんはそう言うと苦笑いを浮かべた。
でも、空を見上げると満天の星。
陸地も蛍が作り出す幻想的な光に包まれて、本当に綺麗だった。
「ありがとうございます」
ぽつりと呟くと、田中さんが僕の顔を見る。
「水の音、満天の星空に蛍。自然に抱かれていたら、今日の事、乗り越えられそうな気がします。自分の悩みも、前向きに考えられそうです。すぐには変えられないけど…でも、明日は元気になれそうです」
笑顔で田中さんに言うと、田中さんも微笑んで
「明日は、川床で朝食が食べられますよ」
と答えた。
「川床?川床って、川辺で食事するやつですか?」
「はい。本当は夕飯なのですが、今日は遅くなってしまいましたからね…。そこは親族の強みです。朝食をそこにしてもらいました。少し寒いと思いますので、温かくして行きましょう」
髪の毛が濡れて、いつもは上げている前髪が下りているので幼く見える田中さんにドキっとしてしまう。
「さっきから気になっていたのですが…、熱くないですか?」
僕が田中さんに身体を見られるのが恥ずかしくて、肩まで浸かっているとそう聞いて来た。
「だ…大丈夫です」
暗いから良く見えないのはわかってるんだけど…でも、僕から月明りに照らされた田中さんの上半身が良く見えるって事は向こうにも見えるって事だよね…。
そう思っていると、田中さんがゆっくり近づいて
「赤地さん、本当に大丈夫ですか?顔、真っ赤ですよ?」
と言いながら僕の頬に触れた。
その時、間近で見た田中さんの首筋に、キスマークがあるのに気付いた。
「た…田中さん。そ…それ!」
驚いてキスマークを指すと
「あぁ…。まぁ、すぐ消えますよ」
って笑ってる。
そして脳裏にあの時の事が蘇る。
「本当にすみません」
恥ずかしくて両手で顔を隠して謝ると
「気にしないでください。あれは全部、薬のせいなんですから」
そう言って、僕の頭を撫でた。
顔が上げられずに俯いていると、揺れるお湯の向こうに田中さんの下半身が見えてしまった。
その時、『ドクリ』と心臓が高鳴り、自分の身体が異変を起こしたのに気付く。
(え!何で?)
慌てて田中さんに背中を向けると
「赤地さん?」
って声を掛けられた。
生まれて初めての感情に戸惑ってしまう。
あの時は薬のせいだったかもしれない。
でも、今はとっくに薬が切れている筈。
それなのに…隣に居る田中さんの裸に目が行ってしまう。
このまま…田中さんに触れて欲しいと思っている自分に戸惑う。
思うようにならない自分の感情に戸惑って
「あの!先に上がります」
って逃げ出そうとした時、グラリと世界が揺れた。
「赤地さん!」
慌てて田中さんが抱き留めてくれた感触に
(人肌って…こんなに気持ち良いんだ…)
そう思いながら、本日、2度目の意識を手放した。
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