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英語のテキストがキリよく終わって気づくと、風呂上がりの颯人が雑誌を読みながらベッドでストレッチをしていた。
最近の俺らはこんな感じだ。変な気を遣わず過ごせていい。
今日はもう勉強は終わりにして、颯人のそばにいく。
最近は、消灯時間がくるまで、颯人の身体をマッサージすることにはまってる。
これならもし見られてもそこまで変ではないということにしている。
最初はくすぐったがっていた颯人も、今は身体がほぐれて気持ちよさそうだ。
「颯人さー……夏休みって部活?」
「まぁ…………。数日くらい休みあるけど……」
ただ遊びに誘おうとするだけなのに、こんなやりとりだけでやる以上に恥ずかしくなってくる。
颯人の背中をぎゅっぎゅっと押しながら変な間ができてしまった。
「じゃあさ……俺んちの別荘行かない?」
「別荘?!?!お前んち、別荘あんのかよ?!」
颯人がめいっぱい驚くので、背中を押しにくくなる。
「まーこの学校なら持ってるヤツは持ってるか…」
「だな。」
別に自慢したいわけじゃないので、その程度で終わらせる。
軽井沢にある森に囲まれた別荘だ。
最近、俺はいってないけれども、小さい頃は家族で毎年夏になると行っていた。
集中して勉強したいって言えば使わせてくれるはずだし、1位さえ取れれば、ちょっとくらい自由にさせてくれと思う。
「一誠って本当にあの須田病院の息子なんだ?」
一日に二度も同じ話題がでてくることに、動きが止まる。
俺自ら何も言ってないのに、ついにこの学校でも広まったのか…。
「…お前まで言ってくるのかよ。」
正直この手の質問は昔からうんざりするほど聞かれているし、その事実だけで俺に寄ってくる奴らが男女問わずいるのも事実だ。
今日の女子たちがいい例だ。
「すげーじゃん!俺だって知ってるくらいの病院だぜ?!」
「別に俺はすごくない…」
「前テレビで特集されてたじゃん。最先端医療にどんどん取り組んで、多くの癌患者さん救ってきたんだろー!かっこよー!」
打算とか忖度もなくはしゃぐ颯人は心からそう思ってるように見えるから安心する。
俺だってすごいと思うし、尊敬していた…。
「一誠って名前からしても、お前長男だろ。」
皆、自然とそこに着目する。
「…姉もいる」
今年19歳になる姉がいる。でも、医大には行かなかった。
父からしたら姉はそれでいいらしい…。
後から生まれても長男だから、全部父さんの思い通りにならなきゃいけねーのかよ…。
今では、長男という言葉が重くのしかかっていた。
「医者……なりたくねーの?」
いつになく真面目な顔をした颯人に聞かれる。
いつものように適当に取り繕ってごまかしたくなったけれども、颯人には自分の気持ちに嘘をつけないような気がした。
「わからない………なりたくない…かも…」
初めて本音を言った。
いつもあの立派な病院を継ぐと思い込んで…思い込まされていたから。
でも、家から離れてみると、本当にやりたいことなのかわからない。
俺のやりたいことってなんだ…
俺の意志はどこにいった…
と、考えると、わけがわからなくて苦しくなる。
颯人の驚く顔が滲んでいくのは、嘘みたいに涙が止まらないからだ。
悔しいんだと思う。
今まで過ごしてきた全てを疑いたくなってくる。
ティッシュを差し出してきた颯人を抱きしめると、少し驚いていたけれども、そのままでいさせてくれた。
「まー、お前んち、いろいろあるもんな…」
俺より小さい身体で、颯人が頭をヨシヨシしてくれるから落ち着いてきた。
颯人がいなかったら俺は思春期の暴走で、窓から飛び降りていたかもしれない。
ここ、一階だから死なねーけど…。
「颯人………颯人…」
颯人の存在を確かめるように名前を呼び、ぎゅーっと抱きしめる。
「一誠、クールそうにみえんのに、繊細なんだなー」
「こんなの初めてだっての…」
誰にも吐けない心のうちを、颯人に知ってもらえて感情がおかしくなったらしい。
けれども、颯人がそばにいると安心する。
「難しく考えんなよな。
医者、やりたいならやる。やりたくないならやらない。…それでいいじゃん。」
颯人の低い声で囁く言葉はなぜか心に優しく響き、スッと入っていく。
逃げ道がなかったから、ずっとこんな風に言ってもらいたかったのかもしれない。
その夜は颯人を抱きしめたまま寝た。
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