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父に合わせて少し早めの夕飯となる。
父に何を言われるのか不安でしかないけれども、この血の柵からは逃れられない。
食卓テーブルに向かうと、すでに父が座っていて風呂上がりだというのに、今すぐ出かけてもおかしくないような私服に着替えている。
どこまで自分を甘やかさないのだろうか…。
「久しぶりにパパが帰ってきたから、たくさん用意しました!」
お刺身、天ぷら、煮物など…俺が帰ってきた時とはまた違った種類の料理がズラリと並ぶ。
こんな豪華な料理を前に父は特別喜ぶわけでもなく、いただきますとだけいい、無言で食べ始める。
テレビもつけない無音の中、母が話題を作る。
「いっちゃんがお友達と軽井沢の別荘に行ってきたんですよ。相変わらず緑や星が綺麗だったでしょう。」
「うん…」
「二人とも忙しいと思うけれども、また家族でも行きましょうね。美和だけはいつでも行けるみたいですよ。」
その後も母だけが話し、俺はその都度相槌をしただけで、父は一向に口を開かなかった。
母がいなかったら…と、思うと恐ろしい…。
食事が落ちつきお茶を飲む父に
「今回の手術も難しかったんですか?」
と、心配そうに母が聞く。
「そうだな…」
「自分のことも大事にされないと、あなたが倒れてしまうわ。そういうのなんて言うんだっけ…」
チラッと俺を見てくる母に医者の不養生と教えてあげた。
「寝ることにする。何かあったら起こしてくれ。」
父は俺には何も言ってこず、そのまま席を立った。
勉強してるのか?とか、寮生活はうまくいってるのか?とか、何か腹立つことの一つや二つ言われると思っていたのに…
「パパ疲れてたわねー。最近次から次へと難しい手術依頼がくるらしいから、休める時がないみたいね。」
食器を片付けながら母が俺に言う。
「そんなに?」
「そうよ、ここだけの話だけど国交省の大臣の手術もパパがやったのよ。」
「そうなの?!」
そんな国の重要人物の手術まで任されるほどだとは…。さすがに驚く。
「そーよぉ。パパって本当にすごい人なのよ。最近は新薬や医療器の導入とか癌細胞の特異性の研究とかいろいろ背負ってて特に大変そうだから、わかってあげてね。」
何をわかればいいんだか…
その答えは聞かないでおいた。
食器を片そうとすると母に止められるたので、そのまま部屋へと戻る。
すると、廊下でパジャマ姿の父とすれ違うのでドキっとする。
思わず化け物でもでたかのように、何も言えなくなってしまう。
「………おやすみなさい。」
やっとの思いで言葉がでて、そのまま行こうとした時だった。
「背が伸びたな…」
「え…」
母にすら気づかれていないことを言ってくるなんて驚きだった…。1センチとちょっとしか伸びてないのに…。
「顔色もいい。元気にやってるようだな。」
「はい……」
無表情な顔は変わらずだったけれども、その内容に思わずきょとんとしてしまう。
「また顔を見せにきなさい。」
それだけいうと父は寝室へと去っていった。
………。
取り残された俺は、少しむず痒いけれども少し温かい気持ちが残っていた。
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