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ふと、意識の浮上を感じて私は目を開けた。
「っ…?」
ここが、あちらの世界、なのか…?
「それにしてはやけに現実的というか、生前の世と変わらないというか…」
天国へ行けるとは思ってはいなかったが、だからといってここは想像していた地獄ともかなり違う。
身体の下に感じるのは生前に知る寝台のふかふかな感触で、天井、床、調度品、どれを見ても生前でいえば寝室と呼ぶ部屋そのものだ。
「ッ…!」
ふと、身体を起こそうとしてみた私は、両手に枷のようなものが嵌められていることに気が付いた。
「こ、れは…?」
こちらの世界でも、何か咎められることがあるのだろうか。私は罪深い罪人なのか。
あんな殺され方をしたのに。
まだ償うべきことがあるのかと、暗い気持ちになったとき、ガチャリと部屋の扉が開いた。
「お〜、起きてたか」
カラカラと笑いながら、私を死に至らしめた張本人、死神たちの長であろうあの男が入ってきた。
「気分はどうだ?」
ケロリと微笑んで、寝台のようなものの側まで歩いてくる。
「ふはっ、なんだ、死神でも見たような顔をして」
あぁ、おまえにとっちゃ、まさしく死神か、なんて笑いながら、男がぎしりと寝台らしきものに腰を下ろしてきた。
「っな、きさまは…」
「あ〜?俺?そういえば自己紹介がまだだったな。俺の名前は悠牙(ゆうが)だ」
「そういうことを聞いているのではないっ」
「ん〜?あぁ、身元の話?なら、俺はこの国のいち庶民よ?まぁ、革命軍のリーダーなんかをしてはいたけど」
「革命軍…」
あぁ、耳にしたことは、ある話だった。
悪政を横行させる王に苦しめられている民たちが、王の世を終わらせようと立ち上がる意志を見せたと。
1人のリーダーを掲げ、その旗の元に集い、革命軍を組織した。
「知っての通り、革命は成功した。王は倒れ、この国の横暴な政治は終わりを告げた。おまえは1人、前王の縁者としては唯一生かされたがな。まぁ、革命軍のリーダーなんかをしていたおかげで、次期国王になど担ぎ上げられてしまった俺が決めたことだ。悪いようにはしないから安心しろ」
「次期国王…」
いや、その憎むべき響きの前に、聞こえた言葉は…。
「生かされた…?」
なんと、私は生きているというのか。
このやけに現実的な景色はまさしく、現実そのものだとでもいうというのか。
「ふ、はっ、なんだ。死んだと思っていたのか?」
「きさまに、窒息を…」
「お〜、お〜、さすが王子様。あれが接吻だっていうことが、マジで分かってなかったか」
さすが箱入り、と揶揄うように笑う男に、私はカッと腹の中が熱くなるのを感じた。
「私はもう王子ではないっ…」
貴様が殺した。貴様が奪った。
悪政を、私も憂いていたけれど。
だからっ、無血で自ら王の座を譲り取ろうと、準備を進めていたのに。
「きさまがっ…」
殺したのだ。
王の横暴に憂慮を感じ、私の下に協力の手を伸ばしてくれていた側近のことも。
私に付くといって力を貸してくれていた、宮廷勤めの使用人まで。
「きさまが、っ…殺した…」
違う。
私が無力だったから。
私が非力で幼く、遅かった。
「っ〜!」
泣くもんか、と食いしばった歯が痛み、噛み締めた唇からは血の味が広がった。
っ!
あのときと…目の前で繰り広げられた惨状のときと同じ臭い。
「っ…」
恐怖のフラッシュバックと、決して泣くまいと、耐えて震える身体が、不意に優しい何かに包まれた。
「荷を下ろせ…」
「き、さまっ…」
「泣いていい」
肉親が奪われた。
自らも王族の地位と安寧を奪われた。
「泣いていい」
「っ、だ、れが…」
泣くもんか。
ましてや仇となる男の腕の中で。
「おまえはよく頑張った」
ふわり。
頭上に現れた手が、頭を優しく撫で始めたからもう駄目だった。
「っ、ぅ…」
本当は分かっていたのだ。
私がいくら悪政を善政に導こうと努力を重ねても。
穏便に、父に王位を譲らせ、賢王になろうと努力をしても。
あの父が、あの暴君が生きている限り、この国の治世は明るくないし、誰かがこうしてあの王からこの国を略奪しなければ何も変わらなかったことを。
分かっていたのだ、本当は。
私もその暴君の子として、罪を背負ったまま死ぬべきだったことを。
「っ、ぅ、ぅ…ひっ…」
だからと、一族すべて…王族から大臣から使用人から誰も彼も、殺してしまうことはなかったじゃないか。
中にはまともに、悪政を立て直そうと努めていた者もいた。
「っ、ぅ、ひっ…ぅ」
何故私だけが生かされた。
「っ、ぅ、あ、ぁぁ…」
どうして私1人が生きている。
「あぁぁぁっ…あぁ」
なんで私は、それでも生にホッとしている…っ。
「それでいい」
「ぅ、っ…ふっ…」
「生きたいと望むのは当たり前のことだ」
「うぅぅぅっ…」
「死にたくないと思うのは、人間だからだ」
何も間違っていない。
そう優しく包まれる言葉に、涙が溢れて止まらなかった。
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